幕間 ジョサイアとスチュアート
シドニーとフォルカーは魔道具の詳細について、部屋に引き籠って話している。
「おい、暇つぶしに付き合え」
スチュアートは、暇そうに離宮を巡回しているジョサイアを誘った。
「何だ、何をしに行く」
「ちょっと聞き込んだので、付き合ってくれ」
「俺は護衛か?」
「まあそんなとこだ」
スチュアートはジョサイアに魔道具を押し付ける。
「今度は何だ」
「幻惑の魔道具だ。お前は目立つからな、ジョサイア」
「それを言うならお前もだよ、スチュアート」
二人は魔道具を付けて、離宮の裏手の森を馬を引いて、そっと抜け出した。
王都を流れるオフジェ川の支流は、王都を南東から北西に突っ切り、西の森を横切って北のオフジェ川本流に向かう。
二人は川沿いに北にしばらく馬を走らせた。途中に馬車がすれ違えるほどの橋がある。そこ迄は王家の直轄地で、橋を渡ればサボーナ侯爵と繋がりのある子爵家の領地だ。
「お前って、ランツベルク将軍の甥なんだよな?」
ゆっくりと並んで馬を走らせながらスチュアートが確かめる。
「母上は将軍の義理の妹だ。遠縁の娘を将軍家の養女にして父と娶わせた」
ジョサイアの父親を一門に引き入れる為か、ジョサイアの父が将軍の威光にすがって、母親を娶ったのか。いずれにしても将軍の前では噂話も出来ないだろう。
「それで俺は、ずるいと苛められたこともあったぐらいだ」
「それは初耳だ」
「言ってないからな。腕を上げるしかない」
武闘派のジョサイアの言いそうな事だ。
「何だ、言いたい事があるなら──」
ジョサイアが言いかけた時、悲鳴のようなものが聞こえた。二人は顔を見合わせて馬を走らせる。
川を行く船の灯りが遠くに見えた。
橋を渡った向こうに急造の桟橋があって、人が倒れていた。川船はもう見えない。ジョサイアはふいにスチュアートの馬の手綱を引っ張った。
「おい」
「帰ろう」
「でも」
「帰ろう」
「分かった」
二人は馬首をめぐらせると、スチュアートを先に、ジョサイアが後から馬を駆って離宮に帰った。
西の森離宮に帰るとフォルカーとシドニーが出迎えた。
「おかえりー」
「何処に行っていたんだ。あまり出歩くなよ、クリス殿下に叱られるぞ」
「オフジェ川に行っていたんだ」
「また危ない所に」
フォルカーに言われて二人は顔を見合わせる。スチュアートより、戦闘勘のあるジョサイアの方が少し顔色が悪い。
「何を見たんだ」
「川船を見た。それと、人が倒れて……」
「それって、橋の向こうですか?」
シドニーの問いにスチュアートが頷くと、フォルカーがため息を吐く。
「無事で良かったよ」
スチュアートとジョサイアの肩をポンポンと叩いた。二人は、もう一度顔を見合わせた。
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