12 王家の礼拝堂と魔法省
クリスティアン王子と梨奈は国王の前を辞して魔法省に行く。今日の護衛はラルフとコリンという茶髪と蒼い髪の男だった。
王宮と魔法省は横並びで連なっていて、その間に王家の礼拝堂がある。クリス王子は先に梨奈をその礼拝堂に案内した。
「ここは王家の礼拝堂だ」
「私が入ってもいいの?」
「女神にこそ、おいで頂きたい」
エスコートしたまま建物に入ると中は下り階段になっていて、黒い服を着た聖職者が二人、ひっそりと脇に立って頭を下げる。
階段を降りると真っ直ぐの廊下がある。聖職者は階段を下りた所で立ち止まり、二人で広い廊下を進む。両脇には歴代の王と王妃の絵が飾られている。
そして突き当りの部屋に入った。
そんなに広くないシンプルな部屋だ。正面に燭台の並べられた祭壇があって、その向こうに淡い色合いのステンドグラスの窓がある。上の方から光が零れ落ちていて、何となく静かな森の中の花畑を思い浮かべた。
片側に像がある。
「これ……」
像は女性で裸体に布を巻き付けて、真っ直ぐに立って遠くを見ている。
「女神の像だ『愛とエロスと豊穣の女神イナンナ』」
王子は着ぐるみの頭の部分だけ下ろす。梨奈が顔を出すと膝を折り、手を取って口付ける。
「リナは私の許に降臨した。私は生涯をかけてリナを愛すると誓う」
(ええと、何かすごく重たいというか……)
「そんなに深刻に考えなくてもいい。今のままの君でいい」
「いいの?」
クリス王子はにっこり笑って、軽く私の両頬と唇にキスをした。
その時、上から零れ落ちる光が、キラキラと光輝いたような気がした。見上げると、光源は何処なのか祭壇の向こうにある、ずっと縦に長いステンドグラスの窓の上から光が降り注いでいる。
「綺麗……」
思わずつぶやくと王子が囁いた。
「私達を女神が祝福してくれているんだ」
「祝福? 祝福って──」
「深く考えなくてもいい。感謝して受け入れればいいんだ」
「そうなの」
王子も一緒だしいいのかな。何だか光のシャワーが、ほわほわとすごく気持ちがいいし、隣にいる王子も、推して愛でたい気分。そうか、押し王子か。
もう一度、着ぐるみを被って礼拝堂を出る。護衛達は外で待機していた。
そのまま隣にある大きな建物に向かう。建物は三つに分かれ、一階と二階は細い通路でつながっている。一階中央は広いホールと受付があって、右が魔攻、左が魔防の各セクションがある。一番下は警邏本部があり、王都の警備を王国騎士団とともに預かっている。
クリス殿下の軍服は此処の魔法省のもののようだ。王都の治安維持の為に、時々王都を見回りするらしい。
中央はこの建物の中で一番大きく、研究施設だという。
三階からは魔法陣に乗って最上階に上がる。護衛二人は三階で待機して王子とふたり最上階に行った。魔法陣の部屋には魔法省の護衛が待機している。
王子は顔パスでそのまま奥へと歩いて行く。
一番奥の扉をノックすると、背の高い男が扉を開いた。
「ダールグレン教授」
「やあ、無事だったか」
背が高く非常に綺麗な男である。長い銀色の髪を腰より長く下ろし。深い森のような緑の瞳をしている。
エルフかしら。でも耳が長くない。でもちょっと──。
「陛下から魔法陣を受け取ったよ。今、解析しているところだ」
教授の部屋は広く、真ん中には大きなデスクと机がいくつか並び、ぐるぐると巻かれた書類がたくさん乗っかっていた。
片側の壁には書棚があり、傍の机に雑然と本が積み上げられている。
もう片側は机が並べられ、その上や下に実験道具やら木箱やらよく分からないものがごちゃごちゃと所狭しと並んでいる。
そのどちら側にも複数のドアがあって、部屋の奥にもドアがあった。
「しかし、いやに明るい顔をしているな。この最近はずっと苛々とため息を吐いたり、鬱々として重苦しかったが」
男はニコニコと王子に話しかけた後で、クリス王子の後ろにくっ付いてきた梨奈に気が付いた。
「何だい、この子は」
「私を魅了した奴と、魅了を解いた子です」
「ふうん、見せて」
「はい。ジェリー、顔だけ出せるか」
『はーいー』
ジェリーが顔だけ解いた。梨奈がほっと息を吐く。
「へえ」
「リナだ。アンフィン・ダールグレン教授。魔法省の副長官だ」
「リナです。はじめして」
「先生は我が王国ノイジードルの至宝といわれる。優れた魔術師で、錬金術師としても活躍されている。私は五年前から教授の教えを乞うている」
「やあ、面白いな。外の子は何だ?」
ダールグレン教授は無邪気に聞いてきた。
「スライムだと言っているな。こいつが元凶なんだが、実はリナの使役にしてしまった」
「どういう事かな」
「リナ、ちょっと着替えておいで。その間に、君のことをダールグレン教授に話しておくから」
王子が着替えを寄越す。いつの間に、さすが気配り王子だ。
書棚の奥の小部屋に入ると、スライムが離れてマリアの姿になった。
梨奈がもたもたと下着から着るのを手伝ってくれる。ドレスは黒っぽい紺で、エプロンまでついている。
「メイドだわ」
マリアの姿のジェリーが、梨奈の髪を団子にしてヘッドドレスを付けた。
『お似合いでございますわー、お嬢様ー』
梨奈はまじまじとジェリーを見る。
「どうしてそんなに、髪の毛から手の爪までキレイに似せることが出来るの?」
何処からどう見ても人間に見える。とても不思議だ。
『食べたー』
息を呑んだ。マリアを見る。ピンクの髪の可愛い少女だ。
タベタ……? この子を?
タベタ……? ジェリーは魔物だから?
タベタ……。 溶かして──?
あ、ダメ、頭が沸騰しそう──。
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