幕間 ランツベルク将軍1
二人が出てしばらくすると、取次の近習が国王の執務室に来た。
「ランツベルク将軍、王国騎士団コーベルガー団長のご子息ジョサイア殿が、お目通り願いたいと申しておりますが」
「ふむ、どこに居るか?」
「団長執務室に待機しております」
「私の部屋に来るように伝えよ」
「はっ」
「それでは私はこれで──」
将軍は国王に恭しく礼をすると執務室を出て行く。
昨日より格段に顔色の良くなったクリスティアン王子と、大人しく王子の側に寄り添っていた少女。
どうにも違和感が拭えない。国王はクリスティアン殿下をどうするつもりか。あの少女に対しての詮議を行う様子も引き離す様子もない。王子はまだ魅了されているのか彼女を引き離さない。
結局王子はラフォルス公爵令嬢と婚約破棄を叫んだのみであった。公爵家とは少しは軋轢が出来るかもしれないが、それも第二王子が成り代われば済む。
騎士団の建物は王宮の続きにある。近衛騎士隊本部は宮廷内部にあり、続いて国王軍の騎士団の建物がある。その最奥にランツベルク将軍の執務室がある。
将軍が部屋に戻ると、既にコーベルガー団長とジョサイアが控室に待っていた。
髪の色は赤銅色に近い、胸板が厚く父よりも上背があってたくましい。
「気分はどうか」
「はっきりいたしております。お願いがあってまいりました。もう一度クリスティアン殿下の側にお仕えいたしたく」
「まだ魅了が解けていないのではないか」
「私は正気でございます」
「殿下は多分王位継承権を返上するだろう。臣下に下るやもしれん。平民になるかもしれん。塔への幽閉、犯罪者として鉱山送りもあるやもしれぬ」
将軍の容赦のない言葉に、ジョサイアはグウッと息を引く。
「自分の一時の感情で決めてはいけない」
「わ、私にとって、あの方以外に仕える方はおりません。どうか」
「若気の至りではないか」
「違います」
「貴様、いい気になるな。将軍に対し何という無礼を」
付き添ってきた団長が叱り飛ばす。
「そのようなことは。申し訳なく思っています。父君に対しても、自分の愚かさが恥ずかしい。お願いでございます」
地べたに座り込み、両手をついて頭を下げる。
「どうか」
絞り出すような声である。
「何かあるのか……」
「は?」
「そうだな、もう一度仕えてみるがよい。その代わりに、毎日細大漏らさず報告せよ」
「はい!」
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