50.ねんねん環獄/木古おうみ

作品名:ねんねん環獄

作者名:木古おうみ

性癖:蚕

性癖:しっとりもちもちふわふわの環形動物

性癖:因習村

性癖:可哀想な主人と頭がおかしい従者

作品URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330657855435887


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 一作目はじっとりとした田舎の特殊な関係性の父子の作品を投稿して頂いた木古おうみさんの二作目です。


 二作目であるこちらもじっとりとした田舎の作品であるのですが、『可哀想な主人と頭がおかしい従者』という性癖の従者が語り手だからかじっとりさは余り感じられず、むしろぱっと見は爽快感を覚えるような内容となっています。自分に優しくしてくれた当代様が他の意地悪な親族の犠牲になるのが耐えられなかったので、当代様を救う目的で儀式を失敗させて当代様と二人きりで暮らすという、従者の目線から見ればスカッとする展開と幸せな生活を送るハッピーエンドの物語でしょう。


 でもそれ、ですよね?


 一話である上を読んだ時点で違和感を覚え、二話の中では思い過ごしかと思ったのですが、三話下で違和感は疑惑に変わりました。

 当代様、死にたがってません?

 これは読み手である自分がそう感じただけなのかもしれませんが、当代様は儀式が失敗した事に対して責任を感じているのか、はたまたこんな姿になるのが想定外だったのかは分かりませんが、語り手である従者から見た描写から判断すると「頭をぶつけて死ぬ」「畳の草を食べて喉を詰まらせて死ぬ」という行動をしている様に読めます。しかし、そこは自分に優しくしてくれた当代様を死なせたくない従者が無理やりにでも生かしており、当代様は死のうとしても死ぬことが出来ず、死にたいと伝える事も出来ない状態になってます。

 なんとも狂った甲斐甲斐しさですね。その素晴らしい捻れた価値観に思わず笑みがこぼれました。成程、これが『可哀想な主人と頭がおかしい従者』という性癖ですね。奥が深いと共に様々な解釈をさせてくれる良い性癖だと思います。

 又、『蚕』という性癖が『蚕』の可愛らしさだけでなく、「人の手を借りねば生きられない」という属性に注目して扱われているのも『可哀想な主人と頭がおかしい従者』の性癖の解釈をする上で重要な材料となっているのも上手いですね。見事な性癖のコンボです。作中でも言われてましたが、当代様と従者のどちらが『蚕』になるのでしょう。外見は当代様が『蚕』で、中身は従者が『蚕』なのかもしれません。

 そして提示された性癖の中でも異彩を放つのが『しっとりもちもちふわふわの環形動物』という性癖です。急にここだけファンシーな文章に見えますが、環形動物というのはミミズやヒルの様に「頭と尾の中間が同じ形状を持つ生物」でして、体に毛が生えている者も存在していますが「ふわふわ」という事はそうそうありません。ましてや六尺(役180cm)もある者なんか存在しません。つまり、当代様のあの姿は『蚕』では無いんです。『蚕』を実際に見た事がある人は直ぐに気付いたでしょうが、繭のまま動く事はあり得ないですし、繭のまま食事もしないんです。じゃあ「当代様」は何になってしまったのか。それはねんねん様と木古おうみさんにしか分からないのでしょう。自身の性癖の為に新しい生物を産み出すというのはとても良いですね。ナイス欲望!ナイス性癖!!


 最期に『因習村』という性癖についてですが、これは木古おうみさんはいくつもの『因習村』を書かれている『因習村』のプロだからこそこうなったと言うべきなんでしょう。なんとこの作品、『因習村』の雰囲気は物凄く高いのですが、過去に村人が被害に遭っていたと昔話に登場するぐらいで村自体の描写がありません。

 それなのにこの作品を『因習村』の作品だと感じることが出来るのは木古おうみさんが『因習村』という物がどういう物なのかを理解しているからでしょう。

 一応、性癖小説選手権の開催者として『因習村』の性癖について考察をしてみたのですが、自分には「閉じられた環境」「閉じているのは精神的か物理的かは関係ない」「余所から見たら滑稽な物」辺りがキーワードとして重要そうには思えても、今作と同じことが出来るかと言われたら出来ません。木古おうみさんの事はこれから「因習村マスター」とお呼びするべきなのかもしれませんね。


 木古おうみさんの作品からは一作目からも二作目からも、「閉じた環境による澱み」とも呼ぶべき堆積した泥の様な黒い感情を軸にした物を感じました。何かがきっかけでその時だけ発生した物ではなく、煮詰まったというか蒸留されたというか、とにかく粘度が高くてその場から動かない癖に外部からの刺激を受け付けず、中に入った物も中々外に出さないというどろっとした物です。

 きっとこのどろっとした物が木古おうみさんの作品の面白さの元となっていて、読んだ人を中々離さない魅力なのではないでしょうか。そしてそのどろっとした物から出力されるのが『因習村』を代表とする「閉じた環境」なのだと思います。

 性癖は明るい物もあれば暗い物もあり、暗い物ほど一般的な流通が少ないので耐性が無い人には魅力的に映り、体制がある人にも数少ない供給なので魅力的に映ります。つまり、木古おうみさんの『因習村』の性癖はそれだけ多くの人から支持される性癖になるのでしょう。やはり『因習村』のプロと呼ぶべき方です。


 今後もバンバンとご自身の性癖である『因習村』と、それにまつわる様々な澱みを表現して頂けたらなと思います。

 性癖小説選手権へのご参加ありがとうございました。

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