42.私から貴方へ/南沼

作品名:私から貴方へ

作者名:南沼

性癖:手紙のような何か

性癖:SF

作品URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330657656815165


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 南沼さんは今回初のご参加の方ですね。ありがとうございます。


 「私を月まで連れてって」というサブタイトルから始まる今作は、とある者から誰かへ向けてのメッセージを軽快な口調と気になる時系列で語る『手紙のような何か』であり、様々な『SF』的な要素が散らばるホラーとも恋愛とも取れるドリーミィで素敵な作品でした。


 いいですよね、『SF』。個人的に『SF』が大好きなのでやや偏った評価になってしまうかもしれませんが、とても好みでした。ありがとうございます。

 まず最初に、『SF』という性癖と『手紙のような何か』という性癖の組み合わせが上手いなと思いました。『SF』と言えば遠く離れた者(※物理的か精神的か種族的かは限定しない)から何かしらからメッセージが届いたり、逆に何かしらにメッセージを届けたりするのが物語の基点だったりします。何かを発見したから始まるストーリーや、何かを伝える事を決めて終わるストーリーが『SF』では良くある物なので、『手紙のような何か』と『SF』の二つの性癖の組み合わせはシンプルながら王道で強かったですね。これだけで個人的性癖ポイントが加算されます。グッド性癖!!


 そして何よりも一番のポイントは冒頭にも書いた「ホラーとも恋愛とも取れるドリーミィで素敵な作品」という部分です。

 大雑把に言えば今作は宇宙の彼方からやってきたがその旅路を語りながら自分を見つけてくれるのを心待ちにしている話であり、その様子を陽気な地の文で『手紙のような何か』にしたためているので一見はポップな作品のように思えるのですが、その『手紙のような何か』こそが一番の肝になります。

 ツングースカと言えばほぼ人が居ない森林地域で起きた大爆発だったと言われていて、このは「白い雲の掛かったあの青い海の美しさに湧き上がった感動」を「少しでもあなたに伝われば」と書き記しています。

 深読みなだけかもしれませんが、本文からは「地球の海の美しさに感動した事で大爆発を起こし約2150平方キロメートルを破壊した」と読み取る事が出来ます。そんなが会いたい相手とは誰なのか。宇宙の彼方からやってくるに足る相手が本当に地球に居るのか。海を見て感動して爆発したのなら相手に会えた時も爆発が起きるのではないか。全く違う相手が発見をした時は機嫌を損ねないのか。そもそも『手紙のような何か』は相手に伝わっている前提での語りなのか。何も分からないけれど、「何者か」が超常的な存在というのだけは分かります。

 急に恐ろしい存在になってきましたね。

 地球迄の旅路も冥王星までは普通ですが、「海王星のプラズマ人」、「天王星の楽譜」、「土星の電気竜」、「木製の精神文明」、「火星の古代文明」、「月の裏側の謎」、そして、「人類の価値観と歌を理解する放射線を発する宇宙で生まれた何か」で締めくくられます。様々な謎が語られますが、このが人類の味方ならば恋愛コメディになれる可能性がありますし、逆に人類の敵ならばSFホラーになりうる可能性もあるでしょう。

 今はまだ誰も何者かを発見していないので何も起きてはいません。

 しかし、いつ発見されるかはわかりませんし、いつまでも発見されない事で機嫌を損ねる事もあります。

 いやー、いいですね。この「世界が終わるかの判断はその時の人類の善性と相手の機嫌によるだろう」というのはとても『SF』的で大好きです。いつか訪れる終末の為にどう生きるかというのも『SF』のテーマの一つなんですよね。お見事です。


 可愛らしい『手紙のような何か』でありながらも、読み進むにつれて『SF』さを感じさせる今作は性癖小説としてかなりハイレベルな作品でした。

 性癖小説選手権の主催とは別に、同じ『SF』ファンとしてこういう作品を読めるのはとても嬉しく思います。こういう哲学や夢を感じる『SF』作品はどれだけあっても困らないですからね。

 南沼さんは初参加という事でしたが、自身の性癖を作品に込めるのがとても上手な方だと思います。今後の性癖活動にとても期待が持てますね。ご参加ありがとうございました。

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