41.人魚のほとりで/木古おうみ
作品名:人魚のほとりで
作者名:木古おうみ
性癖:不肖の父
性癖:人魚の肉
性癖:鄙びた貸しボート屋
作品URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330657586115209
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木古おうみさんは前回の第四回性癖小説選手権からご参加いただいている方で、第四回では短い文章の中に因習村と兄弟の関係性のとても濃い関係性の性癖を凝縮された作品を投稿頂きました。
作品の傾向として悪意はないけれど善なる行動でもないという、現状を改善する力の無い人による「仕方ない」で終わらせてしまう行動の描写がとても上手な方です。
今作でもその諦めの混ざった矜持の描写が見事で、性癖紹介に書かれた『不肖の父』という性癖と「父親」ではなくて「あの男」から始まる本文から、息子とのとても濃い関係性の物語が期待できる導入でした。
主人公は中学生男子で、家での描写も学校の描写も健全な学生であるなら重要な事の筈なのに、頭の中は全部「あの男」の事でいっぱいで全く耳に入ってません。警察官の忠告は「あの男」に関係する事だから反応してますが、悪口に取れかねない忠告を「自分はそれも分かっているから大丈夫だ」と相手を理解しているという雰囲気を出してスルーしています。いいですね。思春期特有の謎の優越感を持ちたがる精神! ナイス性癖!!
そして始まる二人の会話。一見は放任主義の父親と構って欲しい子の会話に見えるんですが、そこはかとなく恋人同士のやりとりに見えなくもありません。きっと父親が他人への接し方をこの方法しか知らないからでしょう。辺り一帯を全て兄弟姉妹にしてしまっているのは伊達ではありませんね。主人公も別に相手が主人公だから特別にこうしているという訳では無いと分かっている筈なのに、それでも今は二人きりで自分に構ってくれるからと嬉しさがにじみ出てしまっています。ペットボトルのサイダーもなんだかんだで喜んじゃってますし、成程これが『不肖の父』。確かに父親として相応しくは無いんですが関係性としては父親です。新しい性癖を知りました。奥が深い。
又、木古おうみさんが提示された性癖として『鄙びた貸しボート屋』はなかなか面白い面白い性癖だと思いました。
都会の貸しボートでは無く、川下りをしている貸しボートでは無く、わざと「鄙びた」と付けた『鄙びた貸しボート屋』というのにとても拘りが伺えます。田舎の繁盛してい無さそうな貸しボート屋というのがとても重要なんですね。
ボートと言えば場所は当然水がある場所であり、水というのは流れる物の象徴でもあります。しかし、どうもこの貸しボート屋の湖は濁っていて中が見えないだけでなく、不法投棄のゴミが捨ててあって湖としての機能を果たしていません。これでは水は流れずに留まり続けてしまい、ゴミの影響もあって水本来が持つ清らかなイメージとは違う全く別の腐った何かのイメージを持ってしまっています。匂いとか下水の臭いしそうですよね。
そういった澱んだ水が溜まっている事こそ清らかではない人間(父親)がここに留まっている事の象徴になるのでしょうし、この場所に自分を縛り付けている人魚の呪いへの八つ当たりの様にも取れます。一言では現わせれない複雑な感情が混ざった性癖の使い方は見事とだと言えるでしょう。性癖の奥が深いと共に上手いです。
全体的に暗く思い話の筈ですが、中身としては父に認められたい子がめでたく父に「自分に似ている」と認められるお話でした。
周りから見たらどうしようもない話に見えたとしても、本人達が幸せならばそれもいいのではないかという作品のお手本ですね。主人公が人魚の肉を食べたら父親と同じ不死になれた事に喜ぶんでしょうが、数年後にめっちゃ後悔して何とかして不死を無くそうと父親に当たり散らしそうな雰囲気も含めてとても楽しく読めました。
登場人物として作中に出てこないのに、全ての原因が『人魚の肉』というのも性癖小説として上手な性癖の使い方だと思います。作品その物が性癖の産物であるという力強い物を感じました。
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