8.涙を溢して/おくとりょう

作品名:涙を溢して

作者名:おくとりょう

性癖:空と土

性癖:色と香り

性癖:お手々

作品URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330656199473257


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 前回の第四回性癖小説選手権からご参加いただいているおくとりょうさんです。今回もご参加ありがとうございます。


 おくとりょうさんの作品は空や大地といった周囲の情景の描写が上手く、まるで匂いを感じさせてくれる作風が特徴で、今回も正にその部分を直球に性癖に書いて頂いています。

 性癖紹介に書かれている通り、『空と土』と『色と香り』というのが本当にそのまま感じられる作品となっていて、正に作者の性癖を文章から読者へ伝える事が重要な性癖小説としてとても素晴らしいです。性癖と言えばどろどろした物が多いのですが、こんなに爽やかに性癖を示せるのはおくとりょうさんの人柄もあるのでしょう。性癖を恥ずかしいと思って中々曝け出さない人は特に見習うべき方だと思います。爽やかでも性癖。


 そんな自然界の空気や彩を現わす爽やかさ溢れる作品ですが、五行目から急展開します。畑から手が生えます。手が。

 おくとりょうさんは以前に最後が意表を突く結末の作品を性癖として挙げて頂いていましたが、今回はどちらかというと最初に意表を突く作品を投稿頂きました。

 一見、これは性癖の変化の様に見えますが、実際は何も変化していません。五行目から先の全てが作品の終わりに関するクライマックスなのです。最初からクライマックスという奴ですね。短編ならではの書き方でしょう。

 その手が『お手々』と丁寧な呼び方かつ、主人公に対して優しさを発揮していることから敵ではなく味方なのだと分かり、優しく儚い存在になにもしてあげれない女性の悔しさと、その儚い運命を受け入れている手の関係性にもお互いを思いやる優しさを覚えます。

 恐らく、おくとりょうさんにとって「手」とは優しさの象徴なのでしょう。

 「手を差し伸べる」という行為は知り合いだけでなく、顔の見えない相手や人生で一度しか会わない相手からも施される事があるというメッセージの様に読み取れました。そして、その優しさを返せる相手が居なくなったとしても、その優しさは次の誰かの為に施してあげようという様に優しさを循環させようという意図も読み取れます。本当に優しい作品ですね。


 おくとりょうさんの今作からは、「誰かに強制するわけでもなく、自分自身で勝手にそう解釈し、自分だけで勝手にそう行動する」という行為が人知れず行われていて、それは特別でもなんでもない行為なのだという性癖を感じました。

 名付けるならば『日常における普通の人の善なる意思の循環』とでも呼ぶべきでしょうか。一言で『善意』や『継承』と書いてもいいのですが、それではおくとりょうさんの伝えたい事が上手く伝わらない気がするので、『日常における普通の人の善なる意思の循環』と表現させていただきました。


 短いながらもグッとメッセージが込められたとても良い性癖小説でした。特に殺伐としていないのがいいですね。

 ご参加ありがとうございました。

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