男子高校生

放課後、窓から眺めるのは校庭で部活動をしている陸上部の女子。颯爽と風を切るように走るその姿は毎日変わらずにずっと見続けていられる。


細くて白い腕に、短いパンツから綺麗に伸びる脚。ポニーテールにしている長い髪が靡く姿や、走り終わってからバラバラになった前髪を治す仕草が美しく思える。


陸上部にタイプの女子がいる訳では無い。俺が好きなのは、陸上という競技に取り組んでいる女子の姿だ。特に、体育着よりも短いパンツから見える太腿がたまらない。



窓際に頬杖を付いて、溜息をひとつ。


ああ、今日もいい日だな。


そんなことを考えながらいつも通り窓の外を眺めていると、隣から頭をコツンと叩かれた。


俺はそいつの方を見る。


「変態。」


「また女子の脚ばっかり見てるよ。」


なんだよ。そういうお前らだって窓の外に釘付けじゃないか。


俺は呆れたように溜息を吐いてから、また窓の外に目線を戻した。



毎日、放課後ここに集まった6人の男子が窓の外を頬杖付きながら眺めているのだ。


こんなことをしているから、一生女子に振られっぱなしなんだと思う。


自分で言うのも何だが、俺を含め6人とも顔はいい方だと思う。クラスでも「イケメン6人組」なんて言われてるみたいだし? だけど、この1年で告白されては振られ、を繰り返している6人でもある。俺の知っている限りではそうだ。



一番奥に居る斎藤明音は、2週間前に告白されて付き合って、一昨日別れた。


その隣の西桃斗は1週間前に付き合って、2日で別れたそうだ。


そして昨日隣のクラスの女子から告白されていたのが柳田紀太。多分明後日くらいには別れると思う。


それから1ヵ月に1回告白されて3日で別れるのを繰り返しているのが福山咲朗。


毎日告白されては断り続けて遊んでいるのが一ノ瀬亜央。


そして、運動部の女子からの告白が多い俺、山下翠。


基本的にはどこに行くにもこの6人で一緒にいることがほとんどである。クラス替えなんてものがないから、恐らくこれからもずっと一緒にいるのだと思う。そうやって心から思えるくらい、俺にとっては一緒にいて楽だし、1番楽しいと思える6人だ。



6人で何も言わずに窓の外を眺めていると、スマホの通知音が部屋に鳴り響いた。


「彼女、面倒くせー。」


スマホの主は紀太。やっぱり、別れるの早そう。だるそうに画面を見ながら指を動かしていた。


それを隣から覗き込むモモがニヤニヤしながら言った。


「あんま可愛くないもんな。」


「うわぁ。それは酷いな。」


亜央が言うと、明音も笑いながら酷いよ、と言った。


だけど、言われた当本人の紀太は否定をする訳でもなく、少しニヤッと笑ってからスマホを見たまま言った。


「まあ、間違ってないよ。」


「自分の彼女なのに。」


「お前、最低だな。」


「お前には言われたくない。」


亜央はうちで1番モテる上に、女子に不自由していない。特定の彼女は作らずに遊びまくっている男だ。


まあ、確かに亜央には言われたくないわな。


「俺はみんな可愛いと思ってるもん。」


「嘘つけ。この間の女の子、微妙だとか言ってたろ。」


「いーや。言ってないね。」


咲朗と亜央は何となく1番一緒にいる感じ。友達というよりは、兄弟みたいな感じ。



こんな感じでダラダラと喋りながら今日も校庭で部活動に励んでいる女子たちを眺めるのだった。


「あの子、この間翠に告ってた子だ。」


「ソフトボール? 体つきエロそうじゃん。」


「ガタイがいいだけだろ。」


「女子の体に程よく付く筋肉良いだろ。」


「変態。」


「変態だな。」


変態なのはみんな同じだろ、と思うのは本日2回目。俺はみんなのことを見て少しむくれた顔をした。


すると明音が校庭を見ながら、あっ、と大きい声を出した。


「なんだよ。」


「あれ。紀太の彼女。」


明音が指さした先には、紀太の彼女と数名の女子たちが俺たちの方を見ていた。何やら俺たちを睨んでいるようだ。


「紀太、彼女になんて返したの?」


咲朗が紀太に問いかける。


紀太の方を向くと、紀太は小さい声で、やっべ、と言ってから、鞄を持って部室を出て行った。


ああ、あれはやらかしたな。


「今日は塾があるから早く帰らないといけない。」


紀太が居なくなった部室で、校庭にいる紀太の彼女を見ながら桃斗が言った。


それを聞いた咲朗が、馬鹿だな、と呟いた。


確かに、馬鹿だな。


この部屋の窓からは校庭が一望できる上に、一番奥には校門までしっかり見える。ここにいるならそんな嘘はすぐにバレるだろうな。


「来たよ。」


亜央の目線の先には、校庭から走って出て来た紀太。全員が紀太に目を向けた。


走って彼女の方に行って、物凄い勢いで謝っているのが見えた。


それを見た明音が大爆笑するものだから、俺たちまで笑ってしまった。


そして最後は、やっぱり彼女にビンタされて終幕した。


「うわぁ。」


「やっぱ女子怖えな。」


俺たちで口々に言っていると、紀太が校舎の下で俺らを見上げて肩を落とした。


明音がそれを見て手を振るから、俺らも一緒になって手を振った。


紀太が呆れた顔をして、校舎に入って行った。


「どうする? パーッといく?」


「いいね。ジャンケンしようぜ。」


俺の合図でみんなが窓際から離れて円になった。みんなで右手を出して、明音の掛け声でジャンケンをする。


勝ったのは桃斗と俺。


俺らは必ず勝った人に決まる。だから買い出し係は桃斗と俺になった。


桃斗が鞄の方に向かったのを見て、俺も鞄から財布だけ取り出した。何を買って来るかをみんなで話していると、紀太が部室に戻ってきた。


「お疲れ!!」


「最悪だよ。」


左手で頬を抑えながら、落胆した様子でソファーに座り込んだ。


その隣にすぐに駆け寄って肩を組んで慰める明音。みんなもソファーに座って、仕方ないよ、と声を掛けていた。


「紀太、何食べたい?」


「え、じゃあ、たこ焼き。」


「いいじゃん。たこ焼き最高じゃん。」


亜央と咲朗からお金を貰って、桃斗を連れて部室を出た。


「結局、6人で居るのが一番なんだよな。」


下駄箱で靴を履き替えて校舎を出た。



桃斗は普段口数が多い方ではないけど、たまにこうやって俺にボソッと本音を言ってくれるのが、嬉しかったりする。


桃斗の横顔は少し楽しそうに見えた。



2人で校庭に出て校舎を見上げると部室の窓から4人が手を振っていた。


桃斗と2人で振り返して、校門を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

詰め合わせ 安神音子 @karasu_kuroneko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る