第6話 神格耐性
ドレッドヘアのその男の、【太陽神】の力が宿っているらしい拳を……俺は手のひらで受け止めた。
──ジュウッ! と熱が俺の体を侵蝕しようとする音が聞こえるが……それに反して、俺の肌が焦げることはない。
「【神格耐性】があってね、俺は神格がB以下の神の影響は受けない」
──俺が転移した先の異世界にも、神はいた。
それも、割とウジャウジャと。人間に知覚できる神も多く、ときおり姿を現しては人間や他の生物たちに恵みや災害をもたらしていくのだ。
そんな神たちの存在の規模──つまり強さを、その異世界の人々は【神格】としてSS~Eまでのランク付けをしていた。
たとえば天空神は異世界の上半分を支配する神であり、神格はS。
海母神は広大な海を支配する生物の産みの親とされる神。その神格はA。
そして、太陽神。それは、異世界の地上を照らす100ある天球のうちの1つ、太陽を司る神であり、その神格はCだ。
……あの異世界じゃ地球とは違って、太陽1つにそれほどのエネルギーは無いんだよね。ぶっちゃけ滅茶苦茶レアなわけではない。
ゆえに、俺の能力が【異世界基準】で現代にまで引き継がれている以上、地球では高い評価を受けがちな太陽神であったとしても──
「──俺にはぜんぜん! 効かないから!」
「ガァッ!?」
割と強めの右ストレートで、ドレッド男を殴り飛ばした。砲弾もかくやのスピードで、その体が廃工場の奥の壁に叩きつけられる。これで決着──と、思いきや、
「あ……あり得ねェ……!」
ボタボタと、鼻と口から大量の血をこぼしながらも、ドレッド男はフラフラと立ち上がった。
「まだ立ち上がるのかよ……」
「神格耐性……? そんな【
「まあ異世界でも珍しい方だったからなぁ……」
「い……異世界だぁッ!?」
「あ」
……やべ、口を滑らせてしまった。
「バカバカしいことをッ!」
ドレッド男は性懲りもなく俺に迫ってくる。が、そのスピードは確かに大したものだった。常人では視界にとらえきれないだろう。異世界で冒険者としても活動していた折に戦ったモンスターにも、ここまで速いのはなかなかいない。
だが、そこから繰り出される攻撃の全てを、俺は全て
「クソッ! なぜ効かないッ! 触れただけで燃え上がる神の力なんだぞッ!?」
「まあ、俺のもこれ、結構なレア能力だからな」
ちなみに俺はそれをAランクの神格を持つ神──大地神との戦いで手に入れた。魔王に誤解を植え付けられそそのかされて、地上の人間を葬り去ろうとした大地神と一騎打ちをし、説得のうえ辛くも勝利を収めたのだ。
──その時に謝罪とお礼の気持ちとして大地神から授かったこの神格耐性だったが……まさか現代日本で役に立つ日が来ようとは。
「というか、いい加減にしつこいぞ──!」
──パン! と、ドレッド男の攻撃の合間を縫って胴体に決まった俺の蹴りが、その体のどこかの内臓を破裂させる。
力量差は明白だ。にもかかわらず攻撃をし続けてくるドレッド男がうっとうしかった。すぐに病院に行けば死にはしないだろうし、これで終わり、そんな気持ちを込めて放った回し蹴りだった。
だが、ドレッド男は一度吐血し、数歩後ろに退いただけで……立ち続けていた。
「ク、ククク……太陽神は、不死と回復の神でもあるんだよ……!」
「……マジかよ」
ニヤリ、とドレッド男は薄気味悪く笑った。思えば、さっき殴った顔面のケガもすでに回復しているようだった。
「ああ、しかしチクショウ。分かったよ……オレじゃお前には勝てないらしい。だがな、むざむざワカを他国へ渡すぐらいなら──!」
「……!」
ドレッド男の内に秘めた神気が膨張した。自爆──いや、俺も美少女もまとめて焼き殺すつもりかっ!
「【魔障壁】──!」
俺は美少女の側まで駆け、とっさにその魔法を発動した。
──その直後、ドレッド男を中心にして、俺たちを熱波の竜巻が襲う。
「きゃっ──!?」
「──大丈夫だ、この中に居れば」
「こ……これは……」
俺たちの周りを丸く囲うのは、紫色の光の壁……のようなもの。本来は敵の魔法攻撃などに対して使うものだったが、外気を遮断できるので、熱波を防ぐのにも有効に作用する。
「くっ──ハッハッハァッ!」
ドレッド男はハイになったように笑いながら燃え上がり、その体が炭になると同時に再生をし、また燃え上がるのを繰り返していた。
「直撃を逃れたかよ、だが、いつまでその中で耐えられるかなっ!?」
「……くっ」
完全に、囚われていた。
ドレッド男の言う通り、この魔障壁は無限には続かない。ヤツの言うことを
……俺は神格耐性があるから魔障壁が無くなっても大丈夫。だけど──
「──ごめんなさい……私が、足を引っ張っているのよね」
美少女がポツリとそうこぼした。
「あなただけなら、きっと難なく逃げられる……そうでしょ?」
「それは……」
「いいの。逃げて」
美少女は吹っ切れたように笑った。
「もともと、生き延びようだなんて……私だけのワガママだもの。家族はいない、友人もいない……私が死んでも、悲しむ人はいないわ」
気にもしない素振りで彼女は言う。
「さようなら。私のことは……忘れなさい」
こちらを冷たく突き放すようなそのひと言に、俺は思わず、
「……はぁ。何言ってんだか」
クソデカため息を吐いてしまっていた。
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