第7話 全世界、それ以上の価値がある

「なぁにが、『私のことは……忘れなさい』だよ。これだからクール系カッコつけ美少女は……」


「は……はぁっ!? カッコつけ!? 私は別に……というか本気であなたの身を案じて……!」


「はいはい、そういう自己犠牲精神とかいいから」


「いいからってあなたねぇ……!」


「あのなぁ、そう簡単に忘れられるならそもそも駆けつけてないんだっつーの。こちとら君に一目惚れしてるって言ってるでしょーが」


「っ!」


美少女は頬を赤く染めた。


……おお、こんな非常時にも照れっていうのは発動するんだな?


「あとさ、勝手に諦められる身にもなってよ。俺、まだ何も諦めてないんだけど?」


俺の言葉に、美少女はグッと息を飲んだ。


「な、何かこの状況を打開する策でもあるっていうの……?」


「まあ……とりあえず訊きたいんだけど、何か刃物系の武器とか持ってたりする? 最悪刃がついてればカミソリでも何でもいいんだけど」


「は、刃物……? あるけど……」


美少女がズボンのポケットから取り出したのは──【十徳ナイフ】だった。


「うお……今どきこんなもの持ち歩いてるんだ……」


「べ、別にいいでしょ! そのサイズなら相手のスキを見て使えるんだから……!」


「いや、別に悪いとはひと言も……それ、貸してもらえる?」


「いいけど……それを何に使おうっていうのよ……?」


「本気出す時には【剣】が必要なんだ。俺──元勇者だからさ」


訝しげな表情をしつつ、手渡してくれる十徳ナイフを構える。


……よし、何とかいけそうだ。


「まさか……あなたソレで戦うつもりっ!? 無茶よっ!」


「大丈夫、任せといてよ」


「アイツの神の力が効かないのは分かったわ……! でも、周りを見て! 近くのワゴン車もセダンも、車体が溶けかけてる! きっと爆発する……それに巻き込まれたらどうするのよ!」


美少女は、俺の腕を掴んで離さなかった。


「それだけじゃない……ワゴン車の中に導線の切れ端が見えたわ。ヤツらこの廃工場に爆薬を仕込んでる! おそらく、追手が来ることを見越して、追手と証拠をまとめて葬り去るつもりだったのよ……! いつ死ぬとも分からない不死者の相手をしてるヒマなんてないの、だから逃げて! 私は、私のせいで誰かが死ぬくらいなら──」




「──落ち着け、大丈夫だから。俺を信じろ」




俺は、矢継ぎ早に話す美少女の、その両肩に手を置いた。


「俺は死なない。死んだら君を守れないからな」


「どこに、そんな保障が……」


「そんなの、生まれて初めての一目惚れだからに決まってる。成就させるまでは死ねないだろ」


「……っ!」


「じゃ、行ってくる」


「ぁ──ちょっと!」


俺はそれだけ言い残してひとり、魔障壁を飛び出した。そして熱波の中、一直線にドレッド男の元へと駆ける。


「ドレッド男ッ! 悪いが──お前はここで殺すぞ!」


「ハハハァッ! ヤケになっての特攻かぁッ!? 殺せるもんなら殺してみろッ!」


俺は十徳ナイフの刃を出し、そこへと魔力を集中させる。


「【魔力剣ソード】──ッ!」


十徳ナイフから紫色の光が伸び、剣となる。それは刃物を媒体として出現させることのできる、魔力によって構成されたつるぎ


「ハァァァ──ッ!」


「ウグァッ!!!」


真横に魔力剣ソレを振るうと、容易くドレッド男の体は真一文字に裂けた。しかし、


「……言ったろ……俺ァいま、不死だッ!」


斬られた体はみるみるうちに元へと戻り、そして何事も無かったように燃え続けた。


「クハハハッ! この場全体に熱が伝わってきやがった! フィナーレは近いぜ、知ってるか? 爆薬は火でなくとも、高熱と少しの振動で容易く起爆するのさ……!」


「……! お前の仲間もまだ、この工場内に倒れてるんだぞ!?」


「だからどうした! オレたちは死すら覚悟して任務に臨んでいる! これでワカが他のどの国にも渡らねェなら本望だ……!」


「……イカれてるッ!」


「オイオイ! 超能力や霊能力が飛び交うこの世界がマトモだとでも!? すでにイカれてるのさ、オレらの世界はッ!」


ドレッド男が発する熱波の竜巻が、いっそう強く荒れ狂う。


「ハハハハッ! さあ、終幕と行こうじゃねェか……! あの世まで吹き飛びなアスタ・ラ・ビスタ小僧どもチコス……!」


「させるか──!」


俺は振るう。手に握る紫色の剣を。


「無駄無駄ァッ! 俺は、死なねェッ!」


やはり、ドレッド男の体は見る見る内に回復する。


……それなら──!


「ハァァァ──ッ!」


さらなる攻撃を俺は重ね続ける。


一閃いっせん、二閃、四閃、それでもダメなら八、十六、三十二──。


「──グフ……ッ! お前、まさか……!」


「ァァァァァァァア──ッ!」


──五百十二、千二十四、二千四十八──!


俺は攻撃を重ねる、重ねる、重ねる。


……いくら斬っても再生する? いくら殺しても死なない? いいぜそっちがそうくるなら、




「振るってやるよ、この剣を! その炎が消え果てるまでッ!」




「──ッ!!!」




……ただの力技、されど力業。その神の降霊とやらは果たして体が無くてもできるものなのか──いや、宿るカラダあっての降霊だろう?


俺の振るう剣はさらに速度を増していく。ドレッド男の体は塵になり、なおも小さく刻まれ続けた。聞こえるのが、俺の剣が走らせる空気を裂くその音だけになったその時──


〔キィィィ──ッ!〕


──耳をつんざく鳥の鳴き声のような音と共に、ドレッド男の居たその場所に光の化身が現れた。


それは先ほど工場の天井に現れ、ドレッド男の体の中へと吸い込まれていったエネルギー体──太陽神。それが飛翔し、明確な敵意と共に俺を貫かんと高速で迫りくる。


「降霊された上に斬られまくって怒ったか、そりゃ悪いことをした……! だけどっ!」


俺は、紫の剣を振りかぶると──地面を強く蹴り、駆けた。太陽神の懐へと潜り込む。




「大人しく神の座へと戻れよ、太陽神! 俺は──あの子を守ると決めたんだッ!」




紫の剣が奔り、まばゆいばかり光の塊にひと筋の闇の線を引く。そして次の瞬間──太陽神の首は落ちた。


〔キュィィィ……ッ〕


太陽神の高エネルギー体はその場で散り散りとなり……風に吹かれる綿毛のようにフワリと天高く消えていく。




──そして熱波の竜巻は収まった。




ドレッド男は太陽神の加護のせいか、体を回復させて仰向けに倒れていた。息はあるようだ……俺に刻まれたせいで丸裸。スッポンポンだが。


その他の黒服たちも大小の火傷はしていそうなものの、竜巻の外側にいたからか死んではいない。ただし、当分動けそうにはなさそうだ。


……あとで警察に通報しとかないとな。爆発物を持ったテロリストがいる、って。とまあ、それはともかくとして、


「……ハハッ、ほらな? 死んでない」


俺は、魔障壁の内側で呆然と立つ美少女を振り返った。


「あなた……神を……!」


「罰当たりなことしちゃったかもな。でもいいや、守れたから。君を──あっ」


そこで俺は、初めてのナンパから紆余曲折うよきょくせつあって、今、ようやく。




「──改めまして、俺は丸山コウ。17歳の高校生。よかったら君の名前、教えてもらってもいいかな?」




美少女は困ったように眉を下げて……微笑んだ。




「──石神いしがみ わかよ。年は……18」




ゾワワッ! と、高揚こうように背筋が震えた。


……石神いしがみ わか、わか、ワカちゃんかぁ……!


「すごく、素敵な名前だね……! わ、ワカちゃ──さん!」


「あははっ、なんで噛むのよ、ソコ」


俺が言うと、こらえきれなくなったように、少しあかの差した頬を緩めてわかは笑った。


「ありがとう。本当に──助けてくれてありがとう、丸山コウくん」


……そのキラキラと輝かしく美しい笑顔はたぶんきっと、この全世界それ以上の価値があるなぁと、俺はそう思ったのだった……まる!






==================


ここまでお読みいただきありがとうございました。

物語の起点、第1章でした。


行間やツンデレ系ヒロインなど、いろいろと新しい試みを入れ込んでみましたが楽しんでいただけましたでしょうか。

主人公やヒロインが好き・嫌いだった~やら、読みやすかった読みにくかった等々、ご感想いただけると幸いです。


また、本作ドラゴンノベルズコンテスト参加中です。


「おもしろかった!」


「これから楽しみ!」


などなど思っていただけましたら、ぜひフォローや☆評価をお願いいたします! 執筆の励みになります。


それではっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る