第5話 異世界の力
廃工場へと足を踏み込みまず俺が目にしたのはいくつかの車、それに多くの外国人だ。中南米系……だろうか?
「¿¡ Quién eres !?」
「なんだ、何語だよ……?」
分からんので【翻訳魔法】を使うことにする。
……異世界じゃ人に対してはなぜか日本語が通じたけど……モンスターとか魔族の言語とかはぜんぜん分からんかったからな。頻繁に使っていたものだ。これを使うとリスニングもスピーキングも、よろしく翻訳してくれるのだ。大変に楽だ。
「なんだぁ、お前は……!」
「あ、俺が誰かって訊いてたのか。俺は──」
答えようとして、その前に。俺はようやく美少女の姿を見つけた。
「……!」
美少女は、いかにも悪そうなドレッドヘアの男に乱暴に髪を掴まれていた。それが、とてもじゃないが温和な雰囲気で無いことは理解できる……っていうか、
「……おい、女の子に乱暴してんじゃねーよ……!」
そもそも、ソコだ。彼女はよく見れば、抵抗できないように手足を縛られていた。その上で女の子の命とも呼ばれる髪を……?
「その子を放せよ、クソドレッド野郎……!」
言語道断なその行いに、怒りが湧き上がってくる。その仕打ちを受けているのが探し求めた美少女だということも、その怒りに拍車をかけた。
一歩、そのドレッドヘアの男へと俺が足を踏み出すと、
「待ってッ!」
悲痛な声が響いた。
「ダメよッ! 帰ってッ!」
「え……?」
「ここはあなたが来ていい場所じゃないの……!」
美少女が、顔をこちらに向けて叫んでいた。
「ケンカが強いからとか、私のことを想ってだとか、そんな理由で関わっていいことじゃない……本当に、殺されちゃうから! だから……!」
「──遅い忠告だな、ワカ」
ドレッドヘアの男はそう言って低く笑うと、【ワカ】と呼んだその美少女を放し、ゆっくり立ち上がった。
……【ワカ】。それって、もしかして……
「オイ、小僧……誰だか知らないが……現場を見られたからには生きては帰さねェ──野郎ども!」
──カチャッ! と、ドレッドヘアの男以外の、他の黒服たちが懐から拳銃を抜いて、俺に向けていた。
「恨むなら
──ッターンッ! と火薬の破裂音が連続する。
銃弾が俺の頭、胴体に目掛けて何発も飛来してくる。
その瞬間、美少女は目を大きく見開いて、その瞳に悲痛さを
……ありがたい。ものすごく心配してくれているんだな……どうか、安心してほしい。俺は全然、問題ないから……!
──【
それは、魔力によって俺の時間感覚を極限まで高めることによって、俺が観測する外部環境の時間の流れを相対的に遅くするという……ああ、説明しようとするとややこしいな。
つまり、実質的に時間の流れを遅くする魔法だ。俺はまるで時間が止まったかのような空間を駆け抜け、全ての銃弾をかわし切る。
「なっ──!?」
「遅いんだよ、反応がッ!」
「ガフッ!?」
ドレッドヘアの男を蹴り飛ばす──昨日の外国人の男に比べ、気持ち強めに。その体が吹き飛んで、ようやく黒服の男たちが息を飲んだ。
「エ、
「許さないのはこっちの方だっつーのッ!!!」
「──ヘバァッ!?!?!?」
黒服の男を、ブン殴る。
「寄ってたかってお前らはぁッ!」
「──ゲフゥッ!」
「こんなッ! 可愛いッ! 女の子をッ!」
「──ゴハァッ!」「ピギャッ!」「ひでぶっ!」
「怖い目に遭わせてんじゃねーよッ!!!」
「──フギャァァァッ!!!」
異世界でレベルアップを重ね鍛え上げた身体能力で、俺は廃工場内を駆け跳び回り、黒服のラテン系外国人たちを殴り、蹴り飛ばしていく。
……ときおり銃声が響く。だが、銃弾は俺を捉えはしない。
黒服たちは軒並み廃工場の壁に叩きつけられると、グッタリと意識を失った。
「……フゥ、よし」
10秒後、廃工場内に起き上がる者は他にもう居なかった。
「大丈夫っ?」
俺はすぐに、縛られたまま放心状態になっている美少女へと駆け寄った。
「ケガは……すごいいっぱいしてるな!? 擦り傷とか、大変だッ!」
「──えっ、えっ?」
「病院にいこう! 消毒しなきゃ!」
俺は美少女を縛っている紐を急いで解く。
「大丈夫? 立てる?」
「えっ……えぇ。ありがとう、立てるわ……」
美少女は、おっかなびっくりといった様子で立ち上がった。
「じゃあ、ここから出よう。はやく手当てをしないと」
「……あ、あなたいったい、何者なの……!?」
美少女が戸惑ったように訊いてくる。
「銃弾を避けるなんて……超能力? あるいはもっと、別の力……?」
「んっ? えっと……」
魔法──と、そう答えようとして、しかし。
「──騙されるな、ワカ。そいつもオレや他のヤツらと同じ……お前の【超能力】を目当てにしてるに決まってるだろう?」
低い声が響く。ユラリ、と。廃工場の奥から、一番最初に蹴り飛ばしたはずのドレッドヘアの男がフラフラと歩いてきていた。
「……ああ、チクショウが。効いたぜ……!」
「マジか……そこそこ力を込めて蹴ったはずなんだけどな」
どうやらそのドレッドヘアの男は、昨日倒した元キックボクサーを名乗っていた外国人の男よりもよっぽど頑丈らしい。
「ワカ、騙されてるぜ、お前。その小僧についていったが最期……日本警察かまったく別の組織に引き渡されるのがオチだ」
「……! そんな、こと……!」
「オイオイ、ソイツがまさか自分を助けに来てくれたヒーローだとでも思ってんのか? ククク、のぼせ上がるなよ……言ったろ? この世界全てがお前の敵だと」
「……おい、ドレッド野郎! 勝手なこと言ってんじゃねぇッ!」
俺は思わず、口を挟んでいた。
……美少女や、ドレッドヘアの男を取り巻く事情は正直まだぜんぜん分かってない。だけど、俺が彼女の敵だと? それは聞き逃せないな。
「俺はこの子の味方だ。それだけは絶対に曲がらねー」
「ウルセェなぁ……小僧、お前は消え失せろよ」
ドレッドヘアの男は指を組むと地面に膝を着き──それから何やらブツブツと唱え始めた。
──直後、辺りの空気の質が変わる。
それはなんだか俺にとっては懐かしい……異世界のニオイがした。
「なによ……アレ……!」
美少女があぜんとして、廃工場の天井を見上げた。そこに現れていたのは金色に輝くエネルギーの塊。それが、吸い込まれるようにしてドレッドヘアの男の体内へと注ぎ込まれていった。
「アア……久々に【降ろした】ぜ……!」
男が唸るように言う。その体から溢れ出しているのは輝かしい金色のオーラ。それがドレッドヘアの男の体を包み込んでいた。
「小僧……テメェは神を信じるか?」
「……神? まさかっ!」
ドレッド男の言葉に反応したのは、美少女。
「気を付けて! やつはシャーマンよッ! 【この世ならざる者】を自身にへと降霊することができる霊能力者! おそらく、今アイツの体に降ろされているのは──」
「──そうだ」
彼女が言い終わるのを待たず、ドレッド男が音すら置き去りにする速度で俺の背後を取っていた。
「俺は【
「……太陽神」
「供物となれ、小僧ッ! 神は血を欲しているッ!」
「──まあ、でも太陽神の【神格】はCだしな」
俺はそのドレッド男の一撃を、素手で、片手で受け止めた。
「……は?」
ドレッド男の、間抜けた声が廃工場内へと響いた。
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