恋人の手前でその向こう(後編)

二人で薄緑の看板のファミレスまでやってきた。


「何気に久々だね、一緒に晩御飯たべるの」


「そうだな、何食うかな」


扉を開き店の中に入ると、そこには見知った顔が


「あ、佐々木じゃん」


「おう、勇樹と紅葉じゃねぇか、今日もどっか遊びに行ってたのか?」


「一日中カラオケしてたわ、お前は?」


「あぁ、お前らと同じくデート」


「そうなんだ、、、、」


佐々木の一言が耳に入った勇樹と紅葉は固まる。そして一度頭を再起動させる。

まぁ、それをしたところで何かが変わるわけでもなく


「「えぇぇぇぇぇぇ!」」


 二人の驚きの声が店内に響き渡る。それにより客や店員の視線を集めてしまって、恥ずかしそうに軽く頭を下げた。

 その時、ちょうど佐々木達は席に案内された。


「んじゃ、おさき」


 さっさと行ってしまった佐々木によって、二人の間に謎の気まずい空気が流れる。お互いに何かを話そうとしても、どれも頭の中で消えていく。その中で紅葉がやっとの思いで言葉を発した。


「そんなんじゃ、、ないのにね、、」


――――――――――


 あの後そんなに時間を空けずに二人は呼ばれ、食事を始めたのだが、お互いに友達としてだはなく異性として意識してしまい、なんとなく話しにくくなってしまっていた。

 ただ黙々と食べながら、お互いのことを気にしたようにチラチラ見る。お互いにそうしているので何度か目が合うことがあったが、目が合った瞬間にほかの方向に目を向けて、そしてさも何もなかったかのようにふるまう。


 そんな感じのまま、晩御飯を食べ終わり、沈黙とともに家路についた。

 ちなみに今の二人の心の中はというと


(なんで俺と紅葉が付き合ってるってことになってんだよぉぉぉ!

 というか、そんなこと言われちゃっら意識せざるおえないだろうがよぉぉぉ!

 意識してみるとこいつ結構可愛いし、何気にハイスペックなんだよな。

 あぁぁぁぁ!先走るな俺別に紅葉は俺のことを意識してないんだから!)


(え?私たちそんな風にみられてたの?

 別にそんな風にみられるようなこと、、、うわぁ!いっぱいある!

 それどころか今日間接キスしてるじゃん。恥ずかし!

 というかそう考えてみると勇樹って結構イケメンだし、何気に気遣いもできる。

 あれ?超ハイスペックじゃね?よく今まで意識せずにいられたな、私!)


 自分の先走る考えを止めようとしているが、全然止めれる気配がない勇樹と、自分の恥ずかしい行為を思い出し自分の中で悶えている紅葉。

 今まで意識してこなかった分、今になって、大きな塊となってやってきたお互いへの意識により、二人の距離は少しはなれた。

 

 小学校で初めて出会ってから約10年ほどたった今日、勇樹は紅葉に、紅葉は勇樹に惚れたのである。

 だがしかし、お互いに相手は友達として意識していると思っているため、ここから両片思いが始まるのだが当事者たちは知る由もなかった。


短編【恋人の手前でその向こう~完~】


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★短編★ 恋人の手前でその向こう 薄明 黎 @singononote

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