第20話 スターの眠り
「●●●」
お母さん。
「さぁ、おいで」
お父さん。
私は2人の腕の中で笑っていた。
「●●●。私たちの可愛い娘」
どうしてだろう。
幸せなのに。
嬉しいはずなのに。
私の居場所はここじゃない気がする。
でも、家族以外に居場所なんてあるのかな。
何か、忘れてる気がする。
大事な人。大好きな人。大切で決して忘れてはいけない人を。
あれ。
私の名前って何??
お母さんもお父さんも呼んでくれてるのに。
靄がかかったように。聞こえない。
私の名前が消えていく。
「お前は、まだここにきてはいけない」
「あなたの本当の。新しい居場所へ戻りなさい」
私の新しい居場所?
ここにきてはいけないって何。
どうして、そんなに遠くにいるの。
私を連れて行って。
1人、置いていかないで。
私も一緒に。
同じ場所に行きたいよ。
1人は嫌だよ。
「お母さん!!!お父さん!!!」
待って。
行かないで。
私は走る。
息が切れても。
足が痛くて重くなっても。
胸が痛くて。
目から涙が溢れる。
手をいくら伸ばしても。
いくら走っても。
お母さんのところにも。
お父さんのところにも。
追い付けなくて。
それ以上に離れていく。
嫌だよ。
おいていかないで。
2人の顔や胸から血が出てくる。
「いや」
急に倒れた両親。
大きな太い笑い声。
聞きたくない。
しゃがみこんで耳を塞ぐけれどどこからともなく聞こえる。
怖い。
怖い。
目の前では、血だらけのお母さんとお父さんが倒れていた。
私を包み込むように。
2人の体が冷たくなっていく。
鼻がゆがみそうなほどの匂い。
凍えるほど寒い。
誰か。誰か。
『一緒に逃げようか。この残酷な世界から』
誰?
優しい声で顔をあげると白銀の髪にルビーのような赤い目。
私に手を伸ばしている姿はきらきらと輝いていて。
もう一つ手が伸びてきて見ると黒髪にエメラルドの瞳の優しい顔。
そっと二つの手を握る。
「「お帰り、スター」」
2人の優しい声とともに怖い声は消えて。
あんなに寒かったのに、すごく温かくて。
2人の後ろから眩しいほどに光が差し込んで。
体が浮く。
どんどん上にあがっていく。
シリウスside
「スター」
少しづつ顔色がよくなっていき、今は安らかな寝顔だった。
だけど、どこか悲しそうな表情。
「お母さん。お父さん」
小さな声で呼ぶ姿は痛々しくて。
大丈夫という意味で強く手を握る。
「帰っておいで、スター」
隣から、肩を叩かれる。
「マルコ」
目の下に隈を作ったマルコは前より老けて見える。
「母上や他の使用人は僕がなんとかする。だから、シリウスはスターに集中して」
言われなくてもわかってる。
マルコが大変なのも知ってる。
だけど、スターを苦しめてるのも嫌なんだ。
「落ち着け、シリウス」
アドルフにまで言われた。
「シリウス、顔色悪いけど眠れてないの??」
「そうだよ、スターが心配で寝れないんだ」
頭を抱えて返事すれば違和感に気づく。
顔をあげるとにこにこ笑顔のスターが俺を見上げていた。
「おはよう、シリウス」
高揚した頬で、前よりも痩せたスター。
それでも、明るく笑う彼女は眩しくて。
「心配したんだから、この人たらし!!」
思い切り頭をなでるとスターは小さな悲鳴をあげて笑った。
スターの眠りはもうない。
あったとしても、こんなに長いのはもうごめんだ。
「てか、騎士様もいる!?」
スターがいれば自然と明るくなる。
それと同時に強くなれる。
守るものがある。
守りたいものがある。
守らなきゃいけないものがある。
何があっても手を離さない。
スターの眠りは、もっともっと先でいい。
こんなに早くはいらない。
だから、何があっても。
そばびいるから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます