第1話 いいから、もう。いいから

「おい、さっさと動け!!」

 思い切り突き飛ばされ、強く地面に顔をぶつける。

 痛い。もう、涙さえでてこない。

 どうして私はこうなったの??

 ただ、家族と一緒にいただけなのに。

 盗賊に両親が殺されて、私は盗賊に売られて。

 お母さん。お父さん。会いたいよ。

 目から涙がこみあげてくる。

 涙を拭い、起き上がる。

ふらふらとした足取りで荷物を運ぶ。

 私は、弱いから。

 諦めるしか方法を知らない。

 だって、逃げたって。足遅いから捕まるし。

 もっと痛い目にあうだけだし。

 それなのに。

「おい、またあいつかよ」

みんなの視線の先を見れば、また、あの人。

いつも奴隷商人の人にたてついている同じ奴隷の人。

みんな、関わらないようにしている。

自分に目を向けられるのが怖いから。

私は。私は!!!

涙を流しながら駆け寄る。

「……」

私は何も言わず、スカートをちぎり、包帯のかわりに腕に巻いていく。

「へへ。ありがとな。いつもいつも」

優しく笑いかけられ、目はきらきらと輝いていて。

眩しくて、目を逸らす。

殴られても、蹴られても。

反抗は止めなくて。

そんな彼が羨ましかった。

私にとってヒーローみたいな存在。

殴られる。蹴られるとわかっていても。

彼は意思を曲げなかった。

でも。それでも。

「…から」

「ん?」

私はもう限界だった。

「いいから。もういいから」

限界を通り越して、私は泣いていた。

「もう、ヒーローになろうとしなくていい。だから」

だから、お願い。もうやめて。

これ以上。痛い思いしなくていいから。

私たちの希望にならなくていいから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る