暴力沙汰の痕跡を顔に残したまま職場に出てきた先輩のお話。
わずか三百文字のワンシーン、というか事実上の一文の中に、キュッと濃密に詰まった〝危険な香り〟がたまらない作品です。
危険な香りのする男は良いものです。
これがストレートに「危険な男」とかだと、その種類によっては非常に困ったことになっちゃうんですけど(例えば『なんか謎の怒鳴り声を上げながらこちらを追いかけ回してくる近所の名物おじさん』とかの危険だとなにも嬉しくない)、香りだけなら誰も損しませんし、あればあるだけ嬉しいものです。
もう飽きずにいくらでもちゅるんといけちゃう。
個人的に好きなのは、視点保持者たる『俺』さん。彼と件の先輩との距離感、というか微妙な間柄。
どうも終業後にちょいちょい喫煙所でふたりきりになる感じの関係性。それなりに親しいようにも読めますし、でも逆に「ただこうして一緒になることがたまにあるだけ」みたいな解釈もあり得て、この辺の〝余地〟みたいなものがとても好き。
勝手に関係性をあれこれ邪推する楽しみ。
それはきっと、見える青アザから何かを勘繰るのと同じように。
サクッと短い小品ながらも、というか、なればこそピリッと鋭い読み味の作品でした。