君は硝子のように弾けて、白い綿毛のように空に消える


あの日の帰り道、君は事故にあった。


事故の相手はなんてことはない。


浮かれて調子に乗った同世代くらいの若者。


女のコ達の前で格好をつけたい、たったそれだけのちんけな虚栄心の犠牲となって彼女の短い人生は幕を閉じた。


報せを聞いた時、怒りや悲しみが来るより先に、僕はへなへなとその場にすわりこんで立てなくなった。


スマホを持つ手が信じられないくらい震えて僕はスマホを落としてしまった。


拾おうと手を伸ばしても上手く拾えず、やがて拾うことを諦めた。


スマホから聞こえるハルカのお父さんの声が、まるで遠い水の底から聞こえるようだった。




火葬場で白い灰になったハルカを見ながら、僕は何度目かも分からない涙を流した。


ご両親以上に悲しむべきではないとか、色んなことを考えたけれど無駄だった。


まるで僕の筋力が涙に溶け出ていくように、涙は溢れ、足元は覚束なくなっていく。


そんな僕の肩をハルカのお父さんががっしりと掴んで支えた。


痛いほど力が入ったお父さんの手。


彼は何も言わずに、ただ力強く僕の肩を掴んで支えるばかりだった。



全てが終わり、僕が頭を下げてその場を去ろうとした時だった。


「待ちなさい」


不意にハルカのお父さんに呼び止められた。


「本当は…私達の手元に残しておきたかったのだけれど…君が持つに相応しいだろう…」


お父さんが一冊の手帳を差し出し言った。


「あなたのことばかり書かれてるのよ…」


ハルカのお母さんが目に涙を浮かべて笑う。


そんな二人を見てまたしても僕は涙を流した。


それはハルカの日記だった。


懐かしい彼女の筆跡が、ありし日の匂いを運んでくる。


僕はそれを抱きしめてもう一度深々と頭を下げた。


「残されちゃった方は大変よね。困った事があったり、誰かと話したくなったら、いつでも家に来てちょうだい…」


お母さんが涙を拭い言う。


「ハルカは…ハルカが君を…大好きだったから…私達も君を大好きに思うよ…私達夫婦は君の幸せをね゛がっでる…」


涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、そう言ってお父さんはもう一度僕の両肩を掴んだ。


僕は泣きながら何度も何度も頷いた。



家に帰り日記を開いた。


日記の始まりは僕とハルカが出会ったあの日からだった。

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