第2話
私は今処刑台の上にいる。両手に枷をされた情けない姿を広場で群衆に晒されている。
王太子に手を上げたのだから当然といえば当然ね。
微笑を浮かべる。
「処刑される気分はどうだ?」
ニコラン殿下がカツカツと足音を響かせながら処刑台を上ってきた。
「どうだ? 誠心誠意謝罪して靴を舐めるなら、助けることを考えてやってもいいぞ?」
膝をついている私を見下して勝ち誇った笑みを浮かべる殿下は、目の前に靴を差し出してきた。誰がやるものか。
ペッと靴に唾を吐く。
「あいにく両手が塞がっているの。水はあげましたから、ご自分で洗ってくださる?」
「貴様ァ!!」
激昂した殿下に顔面を蹴り上げられる。
「この期に及んでまだ見下すか!! そんなに誇らしいか、その傷が!! 一度命を救ったくらいで調子に乗るのもたいがいにしろよ!!」
「で、殿下、お止めを!」
怒り狂った殿下はさらに蹴ろうと詰め寄ってくるが、すぐに兵士に止められる。
傷を隠さないように言ったのは殿下のほうなのに、ずいぶん身勝手だわ。被害妄想も甚だしいわね。
「民が見ておりますから……」
「チッ、さっさと処刑しろ」
外聞を気にしたのか、殿下はすんなりと下がった。兵士に命令を下して去っていった。
私は再び処刑台に跪かされる。側には抜き身の剣を持った兵士が立っている。いよいよ処刑されるのだ。
もちろん、こんな年で死ぬことになってお父様やお母様、お兄様には申し訳ないと思う。
でもあんな下劣な男に頭を垂れるくらいなら死んだほうがましだ。悔いはない。
公爵家の娘として恥じぬように堂々と受け入れ、目を瞑る。
兵士がゆっくりと剣を振り上げる。
ふと涙が流れた。
ああ、私はもっと生きたかったんだ。
初めて気付いた。
その時、馬の嘶きが聞こえた。次いで兵士の怒号も聞こえた。
なんだろうと目を開けて振り返ってみると、ちょうどその時、白馬が警備していた兵士の一団を高く飛び越えた。
宙を舞う雄々しい肢体は陽光を浴びて神々しく輝いていた。まるで絵画のようで、思わず自らの状況も忘れて魅入った。
着地した白馬は追いすがる兵士を歯牙にもかけず、まっすぐこちらに向かってくる。
その背には黒髪の騎士が跨がっている。仮面を着けていて誰かは分からないが、まっすぐこちらに向かってくる。
「助けさせるな! 処刑しろ!」
上官らしき男の叫びを聞いて、兵士が私に照準を合わせ、剣を握る手に力を込める。
「させん!」
白馬の騎士の抜き放った剣は、高速でまっすぐこちらに飛んできて、兵士の胸に突き刺さる。衝撃で兵士は処刑台から崩れ落ちた。
「オリアナッ!!」
目の前までやってきた騎士が私の名を呼び、手を伸ばす。
まるで物語の中の、お姫様のピンチに颯爽と助けに現れる白馬の王子様のよう。
仮面を着けていて、誰かは分からないけど、私は迷わず飛んだ。両手に枷を嵌められたまま、処刑台から飛び降りた。
その体を、馬上から身を乗り出した騎士が、腕でがっしと抱きしめる。そして力強く馬上に引き上げると、一気に速度を上げる。
兵士が追ってくるが関係ない。群衆を割って駆け抜ける。
その最中私は思う。この人は誰だろうと。
そしてすぐに首を振る。
いや、今はいいか。今はとにかく生きていたことを喜ぼう。
騎士の胸に体を預けて目を閉じ、喜びを抱きしめた。
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