#18

十メートルほど歩いて、あまり大丈夫でないことをさと子は自覚した。


家並みをぬけると、すぐ目の前に湖がせまっていた。水面は凪いで、静けさにつつまれている。


湖岸から桟橋が伸びていて、その先端に、タンブラー型の細長い影が靄の中に浮かんでいる。


ミアに指示されたとおり、さと子はのろのろと桟橋を歩いて行った。


それは小さな湖の灯台だった。かなり年季が入っているのは間違いない。入り口の錆びた錠を、これも借りた鍵で開く。


ボードをひきずるように、窮屈ならせん階段を上って、ようやくてっぺんに到着したときには、フゥフゥと肩で息をしていた。


「はぁー……。さてと、休んでいるヒマはないわ」


さと子はスタンドボードを灯台の支柱に固定した。ロープを三本使って、念入りに結わえる。


「こんなものかしら?」


ボードに書かれたミアの字は繊細で美しかった。けれども、何か物足りない気がする。


どうせなら、もっと目立つようにチョークアートっぽくしたいわね……と思ったが、さと子にはそんなセンスもスキルもない。


いつのまにか、左側にそびえる稜線から、夜明けの光が差している。

朝靄をつきぬけて、湖面にキラキラと日だまりを作っていた。


「きれい……」


今日はすばらしい日和になりそうだ。

眺めているうちに、だんだん元気がわいてきた。


「──よーし、がんばろうっ」


さと子は眠気もすっかり吹き飛んで、軽やかな足取りで灯台を後にした。

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