#19
受付を開始するまで、まだ少し時間がある。
男たちが三人、近づいてくるのに、さと子は気がついた。
(何だろう? あれ……)
三人とも変わった身なりをしている。フロックコートを着、その上からベルトをしめて、サーベルのような長い剣を帯びている。
一人は見上げるほどの大男で、一人は痩せている。あと一人はずんぐり背が低く、口ひげを生やしていた。
大男以外の二人は、つば広の帽子をかぶっている。
(出店者……?)
しかし、出店品となる荷物は持ってなさそうだった。なんだかお芝居にでも出てきそうな三人組だ。
まっすぐ受付に近づいてきたので、さと子は警戒して思わず身構えた。
意外なことに、先に口を開いたのはミアだった。
「おはようこざいます、みなさん」
三人の中でいちばん背の低い男が、羽根飾りのついた帽子をとって、
「おはよう、ミア・クレー。我ら三人、また貴女とごいっしょできて光栄ですよ」
「ひと月ぶりですね、ロルフさん。今回も仕事を引き受けてくださって、感謝してますわ」
ミアがそう言うと、高いところから低い声で、
「なに、断る理由が無ぇ」
と、大男が返事をした。
「よろしく」
もうひとりの痩せた男が、うつむきがちに答えた。
「それにしても、クレー」
ロルフという名の男は、自分のカイゼル髭をチョイチョイ触りながら、
「しばらく会わないうちに、貴女はいっそう器量に磨きがかかったようだね。街の者はみな言っているよ。貴女はラウネンに咲く気高き一輪の花。ご領主様は果報者だとね」
「ロルフさん、あいかわらずお上手ですね。でも買いかぶりですよ。……みなさん、このひと月の間も、どこかでお仕事を?」
男たちはそれぞれにうなずいたが、
「……実をいうと私だけは、ずっとラウネンにいたのです」
ロルフが答えた。
「あらそうなんですか? それはまたどうして」
「なに、野暮用です。ところで……さてさて、いやまったく」
ロルフは帽子を胸にあて、
「今日の受付はいっそう華やかだね。はじめまして、お嬢さん。わたしはロルフ・スタンラン」
「はじめまして……」
突然、慇懃に頭を下げられて、さと子は戸惑った。
「俗気な男と思わないでください。こう見えても、ブルックラントではちょっと知られた男でしてね。またの名を辻風のロルフ。お見知りおきを」
「それは、それは……?」
そう言われても、さと子にはよく分からない。
しかし、キザな物腰にもかかわらず、どことなく剽軽というか、愛嬌があった。
その愛嬌たっぷりのロルフ・スタンランが、愛嬌とは無縁と思える他の二人を、さと子に紹介してくれた。
「わたしの長年の友人たちです。彼はジーモン」
「おぅ」
大男が身を乗り出して、
「ジーモン・ツヴァイクだ。よろしくな、新入りの嬢ちゃん」
手甲をはめた大きな手で肩をたたかれた。
この大男は、釜みたいな鉄兜を首の後ろにぶら下げて、おまけになぜだか背中に四角い板を背負っている。
「こっちがハーラルト」
痩せ男は小さく会釈をした。
「どうも」
帽子の陰から、小さな傷のある目元がのぞいた。
ジーモンと違って、ハーラルトの装いは身軽だった。
ただひとつ、片手で担いでいる物が、さと子はおおいに気になった。
(火縄銃? ……いえ、猟銃かしら?)
それは、銃身の長いマスケットだった。
なぜそんな物騒なものを持ち歩いているのだろう?
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