受付と三人組
#17
山間にたちこめた朝靄が、湖にながれて島をつつんでいた。
その朝靄を、さと子はあくびといっしょに吸い込んだ。
屋敷の召使いたちは、そろってみんな早起きで(たいてい一番遅いのが主のエルンストだ)、さと子も今ではすっかり早起きに慣れたつもりでいたけれど……。
(ね、む、い……)
今朝はいつもより、さらに一時間ほど早くミアに起こされた。なんとなれば、いよいよ今日は開催日。
夜も明けぬうちから、荷車に乗って、会場へやって来た二人。
街も、島も、まだ眠りについている。
ミアは手燭を灯した。
昨日のうちに預かっておいた鍵で、庁舎の裏口を開ける。
使われていない部屋があって、そこを倉庫代わりに借りている。
ミアとさと子は、倉庫から長机をふたつ運び出した。
庁舎のファサードは
すき間を観葉植物でふさいで……良い感じに受付が完成だ。
「サトコ、箱の中身を確認して」
「わかりました」
屋敷から持ってきた荷物のなかに、小さな宝箱がひとつ。
宝箱の中には……。
出店者の名簿。
それから、会場の図面が数枚。この図面は、庁舎に保管されていた原本の複製で、出店ブースの位置と番号を書きこんである。
ミアとさと子とで手分けして書き写したものだった。コピー機もスキャナーもないのだから、すべて手書きの苦心作だった。
「あれ? お金、とるんですか? 入場料とか……」
宝箱の底に、この国の通貨がいくらか入っている。
つり銭用かと思ってさと子がたずねると、ミアは首を振った。
「とる場合もあるけど。今日はとらない」
念のために用意した小口の現金ということだった。
「さてと、これを置いてこなきゃいけないんだけど……」
「あ。わたし、やります」
これとは、スタンドボードだ。喫茶店の前に置かれている立て看板みたいなやつ。
スタンドボードは二枚用意してあって、一枚はすでに設置してあった。
島へわたる橋のたもとに、今朝ここへ来る途中、通りがけに設置した。
ミアは残る一枚に「受付」という文字と矢印を、白墨で書き込んだ。
「重いわよ。ひとりでもてる?」
「大丈夫そうです。行ってきます」
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