#13

二人の背後で扉の開く音がした。


「まだ来られないかね」


銀縁メガネの中年男性が、玄関から顔を出している。


「もうそろそろ」


ミアが答えた。


「ふむ。先に人払いだけでもしておくかね」


男性は建物の中に引っ込んだ。

彼はライマーという名の差配で、この島の役人だった。この建物は島の庁舎、ようするに役所だ。


「遅れてるのかしら」


ミアは庁舎を見上げた。


広場に面して、大時計が設置されている。

ティースプーンみたいな長針が、今まさに予定の時刻を指している。


さと子は荷車に腰かけて待機していた。ぼんやりと広場をながめていると、


「あっ。魔法の絨毯……」


ときおり、屋根よりも高いところを、人を乗せた絨毯がまったりと飛んでゆく。


(優雅だわ……)


とはおおちがい。


ところで、ひとつ気がついたことがあった。


この世界では、ほとんどの人は魔法なんて使っていない。その理由についてだ。


使えない、のだ。


お屋敷の中でさえ、魔法を使える人間は、ひとにぎり。


あの空行く絨毯を操っているのは、もちろん魔法が使える人──魔法使いだ。


使えるひと、使えないひと。


(何が違うのかしら?)


自分は使えないひと。

ひとつくらい魔法が使えたら、きっと楽しいだろうのに。


「来られたわ」


ミアの言葉と同時に、石畳をはじく蹄の音が聞こえてきた。


二頭立ての箱馬車が、広場の向こう側から近づいてきた。

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