#12



 ☆   ☆   ☆



空から見下ろすと、その島はリンゴのような形をしている。


ちょうど凹みのところに橋が架かっていて、対岸のラウネンフルトから渡ることができた。


湖に浮かぶ小さな島だけれど、街があった。

街の中心には広場プラッツがある。


広場には、あまり口にされることのない古い地名が残っていて、『追憶の庭』といった。


『追憶』──なぜそんな風に呼ばれているのか、理由をほのめかすようなものは何も見当たらない。

変わったものといえば、広場の真ん中に大きな木が生えていることくらい。


「あれは『死人の木』よ」


「しびと?」


さと子は思わず聞き返した。

ミアはうなずいた。


「とても長生きの木……なんですって。ずっと昔、この島に人が住みはじめるよりも前から、この場所にあったそうよ」


「そんなに?」


たしかに古い木だ。しかし、そこまで樹齢があるようには見えない。


「言い伝えでは」


と、ミアは抑揚のない声で言った。


「月の明るい夏至の夜、死者の魂が天からこの木を伝っておりてくるの」


「本当ですか?」


さと子は真顔で聞き返した。


「……そんな話も残ってる。誰も見た人はいないけど。おとぎ話ね」


ミアは冗談めかして肩をすくめた。


「なんだ……」


たとえおとぎ話だとしても、きっと何か来歴いわれがあるに違いない、とさと子は思った。


広場にはイスが並べられ、住人たちが思い思いに木陰で憩っている。

『追憶』というほどロマンチックでもないけれど、『死人』というほど気味悪くもない。のんびりとした雰囲気だ。


(それにしても……)


ここで開催するには、あの『死人の木』が少し邪魔なんじゃないかしら──と、さと子はなんとなく思った。

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