#5
湖のほとりのラウネンフルト。山と森に囲まれた、古い魔法の街。
さと子がこの街を訪れるのは二度目だった。お屋敷で働くようになってからは、初めてだ。
美しい街──と、さと子はあらためて思った。
切妻屋根の大きな家が並んでいて、窓やベランダや玄関は、ペチュニアやバラの鉢植えで飾られている。
通りにはマロニエがほころんで、街中に花があふれていた。
前に来た時──この世界に迷い込んだばかりの頃──は、こんなふうに落ち着いて風景をながめる余裕もなかった。
広場には露店が並び、大勢が行き交い、にぎやかだ。
そして……。
誰かとすれ違うたびに視線を感じて、さと子は赤面した。なんだかあちこちから指を差されている気がする。
それも仕方のないことだった。干し草を運ぶためのオンボロ荷車が、若いメイドふたりを乗せて、コトコト勝手に走っているのだから。
(ミアさんは平気なのかしら?)
通行人と目が合うと、相手はたいてい驚いた顔をして、すぐに目をそらした。
みっともないこと、このうえない。
裏通りの平凡なアパートの前で、ようやく停車した。
「あの……馬に引っぱってもらったほうが、よくないですか?」
「馬なんて贅沢よ」
ミアの返答に、さと子は意外な気がした。
(そういうものかな?)
魔法を使えることのほうが、よほど贅沢だと思うのに。
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