大自然の中で(上)
雨降りの日々が過ぎ、皇国は夏の半ばになった。日陰が恋しい季節だ。
晴れの日が増えてきたが、湿気の多い蒸し蒸しした外気が重たい。気温もぐんと上がり、
この日を心から楽しみにしていた怜明天皇は、非常に意気揚々としている。一行の中には、
コノハを含めた
また、後ろの方には、
その日は、雲ひとつ無い素晴らしい晴天だった。
昼間を過ぎると気温は下がり、
薬畑山の
一行は、薬草を使ったタレをかけた色とりどりの蒸した野菜や鶏肉等の、とても豪華な夕食を
そして、皆々は早めに就寝していたのだった。
翌朝に、怜明天皇の一行が薬畑山を登り始めた時、すぐにコノハはあることに気付いたので、非常に驚いた。
山の中腹にある村に続く道が、見違えるくらいに整備されていたからだ。大きな石が見当たらず、木材を使って階段が造られていた場所もあるようだ。
目を丸くしながら、輿の外を
「……あー。それは
仕事で忙しくて、昨日と今日は実野谷には行けないが、行けない代わりの『結婚祝い』として、山道の整備を決めてくれたそうだ」
「えっ、そうだったんですね!!」
しばらくして、輿の中に居る建比古は何かを思い出したように、再び話し始めた。その話に、コノハはさらに驚いたようだった。
「あっ……、あとな。薬草や
これには、流石に俺も驚いた。
「きっと雪麻呂さまを含めた、全ての薬畑山に住む人たちに喜ばれますね! わたしも嬉しいですっ。
……それに、誤解しそうになっていましたが、吉年さまって、思いやりのある良いお方、だったんですね」
建比古たちが薬畑山の中腹に着いたのは、太陽が南中する少し前だった。
コノハの故郷である村の下の方、木々が一切無い広場に着くと、皆々は長い休憩を取った。一行は多くの
村人たちは、怜明天皇の一行に雑穀米の握り飯と炊かれた味付きの薬草を振る舞った。皇宮の者々と村人たちは談笑しながら、それぞれ昼食を取った。
昼の休憩が終わると、建比古とコノハは祝い事用の正装に着替えることになった。建比古と白人は村長の自宅に、コノハと彩女はコノハの実家に向かったようだ。
コノハは真っ白な生地に、大輪の白蓮が描かれている花嫁衣装を着た。彼女の髪は、様々な色の珠が付けられていて、金糸で作られた華やかな
一人娘の花嫁姿を見て、最初に涙を流したのは、意外にもコノハの父親だった。
すすり泣く彼の姿を見て、コノハの母親も
そんな花嫁の両親を見て、コノハの周りに居た彩女や村の女性たちは笑顔になったり、声を上げて笑ったりした。
ヒバリがツバメを相手にしている間、彩女が赤ん坊であるヒバリの長男を抱いていた。赤ん坊は、彩女の腕の中でぐっすりと眠っているようだ。
「……そーいえば、赤ちゃんの名前は決まったの?」
「ああ!! 『ノビル』ってゆーんだっ」
「……そっか! ノビルくん、はじめまして〜」
椅子に座っていたコノハは立ち上がって彩女の方に行き、ノビルの顔を優しく見つめたのだった。
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