妻の過去
「父親の弟、
コノハの父親は四人兄弟。真ん中に、妹が二人居る。
八鳥は、コノハの父親より十八歳も年下で、妻も子も居なかった。それに、彼はコノハの父親よりもコノハの方が年が近かったそうだ。
八鳥は、剣と
コノハが雪麻呂の屋敷に遊びに来た時、彼女は弓の練習場で、矢を的の真ん中を連続で当てる、八鳥の素晴らしい姿を繰り返し見たのだ。コノハは、自然と八鳥の腕前と
『急所を狙うのは最終手段。……敵も味方も、命を落とさないのが一番だからね』
……それが、八鳥の口癖だった。
コノハが十七歳になった時、彼女は雪麻呂の屋敷で行われた、弓の競技大会に参加した。
その時に、他の武人たちと圧倒的な差をつけて、見事に一番良い成績を取ったのだった。歴代一位を取り続けた八鳥よりも、上の成績だったそうだ。
『ちょっとだけ悔しいけど、嬉しい気持ちの方が大きいよ! ……本当によく頑張ったね、コノハ』
八鳥は優しい笑顔を向けて、爽やかな声でコノハを褒めてくれたことを、彼女は今でも鮮明に覚えている。
しかし、その数日後、突然の悲劇が起こった。心臓の病を抱えていた八鳥は、二十三歳で急死してしまったのだ。コノハと彼女の両親が雪麻呂の屋敷に駆け付けた時は、すでに八鳥の体は冷たくなっていた……。
コノハの一家だけでなく、薬畑山に住む人々も皆、八鳥の死を
とてつもない悲しみに襲われ、絶望さえ感じていたコノハだったが、彼女の心の傷は、時の流れが徐々に癒やしてくれたようだ。
少しずつ元気を取り戻したコノハは、再び亡き叔父の背中を追って、熱心に弓の鍛練に取り組んだ。
薬草山の森林の中、一人で落ちてくる木の葉を射ることを無数に繰り返した。悪天候で無い限り、仕事が休みの日でも鍛練を続けたのだった。
風が少し強い日に、風で勢いよく舞い上がる木の葉も射ることができるようにもなった。また、的にする木の葉も小さいものにしていった。
さらに、他の木々や木の葉で
コノハが気付いた時には、矢を射る微細な加減まで調節できるようになっていた。森林の中で狙いを定めたものだけ、完璧に射ることまで可能になっていた。
手に血豆ができることが絶えなかったが、確実にコノハの武術の精度は非常に高くなっていったのだ。
そして、コノハが皇宮に
今までも薬草等が積んだ荷車が盗賊に襲われることがあったが、今回の
特に、盗賊の頭はとても非情な荒くれ者だった。護衛が近寄る度に
皆が
コノハの超越した弓の腕前で、
そうして死人が出てしまった上に、なかなか盗賊の頭を捕らえることのできぬ状況を重く受け止めた雪麻呂は、頭を完全に倒すよう指示をした。コノハに
快晴だった初秋の日、コノハを含めた武人たちは薬畑山で、あの盗賊団に再び襲われたのだ。
盗賊団の頭に狙いを定める直前、コノハは目を閉じて、心の中で亡き八鳥に語りかけた。
(八鳥にーちゃん。わたし……、最終手段を使うね)
その後、コノハが放った矢は盗賊の頭の
「……そうか。薬畑山に居た頃、お前も色々苦労していたんだな……」
ひと通りコノハの話を聞き終えた
「苦労してたのかは分かりませんが、皇宮で働くことができて良かった、と思っています。初めての給与で、両親に良い寝巻きを送ることができました」
コノハの微笑んだ顔を見て、真顔だった建比古も笑顔になったようだ。
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