不思議な気持ち
従者の部屋に着いた後、すでに
三人が夕食を済ませた後、コノハは彩女と部屋の外に出た。コノハが皇宮に
後宮の一角にある浴場に近付くと、下働きの女官らしき数人が、雑談をしながら楽しそうな様子で歩いていた。彼女たちは皆、寝巻きを着て髪を下ろしていたので、浴場から出てきた後のようだ。
コノハと彩女よりは、普段通りの時間よりも遅く浴場に着いた。
二人が服を脱いで浴場に入ると、中は非常に静かだった。コノハと彩女以外は、誰も居ないようだ。
二人は湯釜から
その後、敷いてあった
『女は、男とは違うっ!! 当て布だけじゃ駄目だ!』
彩女の横に座っていたコノハは、夕方に聞いた建比古の言葉を、なぜか急に思い出した。白昼夢のように、鮮明な記憶が頭の中に
(女扱いされたのは初めてだった、からかなぁ――)
身内のように心配してくれた
昔から、彼女は仕事でも休みの日でも、体を動かすことが多かったからか、手足の怪我は日常茶飯事で、
成人した後には、薬草や
「……そーいえば、白人から夕方のことを聞いたわ。傷の具合はどう?」
「えっ……、あ、そうですね――」
彩女が話しかけると、ようやくコノハは夢見心地が薄らいできた。ぼんやりと考えていたのも止めることができたようだ。
「血は完全に止まったみたいなので、良かったです。建比古さまから手当用の一式頂けたので、お風呂の後にも使わせてもらいます」
「そう……」と彩女が優しく
「建比古様……、
白人が夕方の出来事を見ていたことを察すると、恥ずかしさで少し顔が熱くなってしまった。
彩女は穏やかに微笑みながら、ふふっと声を出した。
「コノハ、建比古様に気に入られたみたいね」
「えっ!? ……あ、えーとぉ……??」
「パッと見は分からないだろうけど、人見知りで口数が少ない方だから。白人は従者になる前から、長年、建比古様と親しいから、私もよく知っているのよ」
「ええっ?? そうなんですか……?」
建比古に気にかけられ、何度も話しかけられたことを思い返すと、コノハは彩女の言うことが信じられなかった。
「大王様からは厳格な方だと聞いているだろうけど、それはあの方の一面だけよ。……私たちが、なかなか子どもを授かることができないと悩んでいた時期は、親身になって何度も話を聞いてくれたしね」
「そうだったんですね……。私も最初、建比古さまは怖そうな印象を持っていたんですが……、じっくりとお話ししたら、心優しい方なんだと分かりましたっ!」
あと、眼帯が理由かもしれないが、貫禄があり過ぎる顔をしているので、コノハは
「建比古さまに、気兼ねなく色々とお話ししてあげてね。気に入られているのもあるけど、皇宮で気心の知れた人は少ないから」
「……分かりました。気に入られたっていうのはピンときていませんが、できる限り仲良くさせて頂こうと思います」
風呂から自室に戻った後、コノハはすぐに布団の中に入った。
(今日は、いろいろあったなぁ……)
夜の空気が冷たいせいか、コノハは布団の中に顔まで潜り込ませたようだ。慣れないことが続いて、少しは精神的な疲れを感じていたが、彼女は早く寝付くことはできなかった。
気分が悪くなることでは無いが、今日の建比古との会話のことだけでなく、風呂での彩女の言葉も不思議と気になったからである。
(武人同士やから、建比古さまとは通じるとこがあるのかなぁ?? 話しかけにくい雰囲気を出していらっしゃるけど、実際には話しやすかったし。
彩女さんが言っていたように、また機会があれば、建比古さまとゆっくり話してみたいかも、な……)
そうして少しだけ考え事をしていると、自分が気付かないうちに、やっとコノハは眠り始めたのであった。
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