第3話 アイデアの閃き
良太は上杉から送られてきた課題に、すぐに取り掛かった。「高齢者向けのスマートフォンアプリを企画せよ」。一見シンプルな課題だが、実際にはかなり奥が深い。
良太はまず、高齢者が日常生活で直面する問題点をリストアップし始めた。健康管理、日々の買い物、家族とのコミュニケーション、趣味の充実...。それぞれの項目について、どのようなアプリが役立つか考えを巡らせる。
「上杉さん、いくつかアイデアが浮かびました」良太はメッセージを送った。
「どんなだ?」上杉の返信は素早かった。
「例えば、健康管理アプリです。毎日の体調や服薬状況を記録し、必要に応じて家族や医師に通知する機能をつけます」
「なるほど。でも、似たようなアプリは既にあるんじゃないか?」
良太は少し焦った。確かに、上杉の指摘は正しい。
「そうですね...では別の角度から考えてみましょう」良太は新たな発想を模索し始めた。
「そうだな...高齢者特有のニーズを考えると...」上杉も考え込んでいるようだった。
しばらくの沈黙の後、上杉から新しいメッセージが届いた。
「おい、こんなのはどうだ?『思い出アルバム』アプリ。昔の写真をデジタル化して保存し、AIで顔認識して整理する。さらに、その写真に関連する音楽や当時のニュースなんかも表示できるようにする」
良太は目を見開いた。これは斬新なアイデアだ。
「素晴らしいですね!高齢者の方々にとって、昔の思い出は大切なものです。それを現代のテクノロジーで蘇らせる...」
「ああ、そうだな。認知症予防にも良いかもしれない」
良太は急いでメモを取り始めた。このアイデアを元に、プレゼンテーションを組み立てていく。
「上杉さん、このアイデアを軸に企画書を作成してみます。プログラミングの観点から、実現可能性はどうでしょうか?」
「問題ない。写真のデジタル化とAIによる顔認識は既存の技術で可能だ。音楽やニュースの連携も、APIを使えば簡単にできる」
良太は上杉の専門知識に感心した。彼のプログラミングスキルがあれば、このアイデアを現実のものにできるかもしれない。
「では、私が企画書とプレゼン資料を作成します。上杉さんは技術面での詳細を詰めていただけますか?」
「了解した。明日の夜までには送る」
良太は深呼吸をした。初めての本格的な協力作業だ。彼は興奮を抑えきれなかった。
その夜、良太は遅くまで起きていた。企画書の作成に没頭し、気づけば夜中の2時を回っていた。しかし、彼は疲れを感じなかった。むしろ、久しぶりに感じる充実感に満たされていた。
翌日、会社でも良太の様子は明らかに違っていた。いつもより生き生きとしていて、仕事にも積極的に取り組んでいる。
「加藤くん、最近元気だね」上司が声をかけてきた。
「はい、少し新しいことを始めまして」良太は少し照れくさそうに答えた。
「そうか。その調子で頑張れよ」
上司の言葉に、良太は改めて自分の変化を実感した。「職場デスマッチ」への参加が、彼の日常に新しい刺激を与えているのだ。
その夜、約束通り上杉から技術面での詳細が送られてきた。予想以上に細かく、具体的な内容だった。
「上杉さん、ありがとうございます。これはとても参考になります」
「どういたしまして。で、プレゼンはどうなった?」
「はい、ほぼ完成しています。確認していただけますか?」
良太は作成したプレゼン資料を送信した。数分後、上杉から返信が来た。
「なかなかいいじゃないか。ビジュアルも分かりやすい。ただ、ここの部分はもう少し技術的な説明を加えた方がいいかも」
良太は上杉の指摘を元に、さらに資料を改善していった。二人のやり取りは深夜まで続いた。
「よし、これで完成だな」上杉が最後に送ってきたメッセージだった。
良太はパソコンの画面を見つめ、満足げに微笑んだ。彼らの「思い出アルバム」アプリの企画は、予想以上に素晴らしいものになっていた。
「明日、運営側に提出しましょう」良太は提案した。
「ああ、そうだな。楽しみだ」
上杉の言葉に、良太は少し驚いた。最初は消極的だった上杉が、今では「楽しみ」と言うまでになっている。この変化に、良太は何か特別なものを感じていた。
ベッドに横たわりながら、良太は天井を見上げた。明日から「職場デスマッチ」の本番が始まる。他のチームとの対戦。プレゼンテーション。勝ち抜いていくプレッシャー。
しかし、良太は恐れていなかった。むしろ、心の奥底では期待に胸を膨らませていた。この「職場デスマッチ」が、彼の人生にどんな変化をもたらすのか。それを知るのが、今は楽しみでたまらなかった。
目を閉じながら、良太は微笑んだ。明日からの新しい挑戦に向けて、彼の心は既に動き出していた。
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