第2話 デスマッチの始まり
それから数日後、良太のスマートフォンに通知が入った。「職場デスマッチ」からのメッセージだった。
「加藤良太様、あなたのエントリーが受理されました。パートナーとのマッチングをお待ちください」
良太は思わず身を乗り出した。まさか本当に参加できるとは思っていなかった。彼の心は、期待と不安が入り混じった複雑な感情で満たされていた。
その後の数日間、良太は仕事の合間を縫って、「職場デスマッチ」のサイトをチェックし続けた。パートナーが決まるのを待ちわびながら、彼は自分のスキルや経験を見直し始めた。
大手企業で働く28歳のサラリーマン。プレゼンテーションスキルには自信がある。数字を扱うのも得意だ。でも、それ以外に自分には何があるんだろう?
そんなことを考えていた時、再び通知が入った。
「加藤様、あなたのパートナーが決定しました。上杉和人(うえすぎ かずひと)様です。プロフィールをご確認ください」
良太は急いでプロフィールページを開いた。そこには、コワモテな見た目の男性の写真が表示されていた。
名前:上杉和人
年齢:32歳
職業:ゲーム制作会社プログラマー
「ゲーム制作...か」良太は呟いた。全く異なる業界の人間とパートナーを組むことになるとは。これは予想外の展開だった。
良太は躊躇しながらも、上杉にメッセージを送ることにした。
「初めまして、加藤良太です。よろしくお願いします」
返信は意外にも早かった。
「上杉です。こちらこそよろしく」
簡潔な返事。良太は少し戸惑いを覚えたが、さらにメッセージを送ることにした。
「デスマッチについて、どのように進めていけばいいと思いますか?」
今度の返信にはしばらく時間がかかった。
「正直、よくわからない。ルールを確認して、必要なことをこなしていけばいいんじゃないか」
良太は眉をひそめた。上杉の返答からは、あまり積極的な姿勢が感じられなかった。
「そうですね。では、まずはルールを確認しましょう」
良太は「職場デスマッチ」のルールページを開いた。そこには以下のように書かれていた。
参加者は2人1組のチームを組む
各チームには、ビジネス課題が与えられる
課題に対する解決策を考え、プレゼンテーションを行う
他のチームとの対戦形式で勝敗を決める
勝ち抜いたチームには、賞金と副賞が贈られる
良太は深呼吸をした。これは本格的なビジネスコンペティションだ。単なるゲームではない。
「上杉さん、ルールを確認しました。本格的なビジネスコンペですね。私たちの強みを活かせると思います」
「そうか。で、具体的に何をすればいいんだ?」
良太は少し苛立ちを覚えた。上杉の態度は、明らかに消極的だった。
「まずは、お互いのスキルや経験を共有し合いましょう。それから、与えられる課題に備えて、いくつかの戦略を立てておく必要があります」
「わかった。じゃあ、俺のことから話すよ」
上杉の返信に、良太は少し希望を感じた。
「俺はゲーム制作会社でプログラマーをしている。主にスマホゲームの開発だ。コーディングはもちろん、ゲームデザインやユーザー心理の分析なんかもやってる」
良太は目を見開いた。上杉のスキルセットは、彼が想像していたよりもはるかに幅広かった。
「それは素晴らしいですね!私は大手企業で働いていますが、主に営業と企画を担当しています。プレゼンテーションには自信があります」
「なるほど。それなら、俺がアイデアを出して、お前がそれをプレゼンする、って感じか」
良太は少し安堵した。上杉は思ったよりも協力的だった。
「はい、そんな感じでいけると思います。お互いの強みを活かせそうですね」
「ああ。で、次は何だ?」
良太は考えを巡らせた。
「次は...そうですね、模擬的な課題を設定して、実際にプレゼンを作ってみるのはどうでしょうか?実践的な練習になると思います」
「いいアイデアだ。じゃあ、課題は俺が考えよう。明日の夜までには送る」
良太は少し驚いた。上杉の態度が、徐々に積極的になってきているように感じた。
「ありがとうございます。楽しみにしています」
良太はスマートフォンを置き、深く息を吐いた。「職場デスマッチ」は、彼が想像していた以上に本格的で、そして刺激的なものになりそうだった。
その夜、良太はなかなか寝付けなかった。頭の中では、様々なビジネスアイデアが駆け巡っていた。長い間感じていなかった興奮と期待感。それは、彼の日常に色を付け始めているようだった。
翌日、良太は珍しく早起きをした。いつもより1時間早く会社に到着し、デスクに向かう。周りの同僚たちは、彼の様子が少し違うことに気付いたようだった。
「加藤くん、今日は早いね。何かあったの?」
隣の席の先輩が声をかけてきた。
「いえ、特には...」良太は少し躊躇いながら答えた。「職場デスマッチ」のことを話すべきか迷ったが、まだ秘密にしておくことにした。
一日の仕事を終え、家に帰った良太は、すぐにスマートフォンを手に取った。上杉からのメッセージを確認する。
「課題を考えた。『高齢者向けのスマートフォンアプリを企画せよ』どうだ?」
良太は思わず笑みを浮かべた。これは面白そうな課題だ。
「素晴らしいです!早速取り掛かりましょう」
こうして、良太と上杉の「職場デスマッチ」への挑戦が本格的に始まった。彼らはまだ知らなかったが、この挑戦は彼らの人生を大きく変えることになるのだった。
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