第4話 デスマッチ開幕

朝日が差し込む部屋で、良太は早々に目を覚ました。今日から「職場デスマッチ」の本番が始まる。彼は深呼吸をして、ベッドから起き上がった。

会社に向かう電車の中で、良太は上杉とのやり取りを思い返していた。二人で作り上げた「思い出アルバム」アプリの企画。それは確かに良いものだった。しかし、他のチームはどんな企画を持ってくるのだろうか。

オフィスに到着すると、良太はいつも以上に集中して仕事に取り組んだ。「職場デスマッチ」のことで気が散るのではないかと心配していたが、逆に普段以上に効率よく仕事をこなすことができた。

昼休憩中、良太はこっそりスマートフォンを取り出し、「職場デスマッチ」の公式サイトをチェックした。そこには、今日の夜7時から第一回目の対戦が行われるという告知が出ていた。

「加藤さん、上杉さん。本日19時より、オンラインミーティングルームにて第一回対戦を行います。対戦相手は当日発表します。準備をお願いします」

良太は緊張と興奮が入り混じった感情を抑えきれなかった。すぐに上杉にメッセージを送った。

「上杉さん、今晩7時から第一回対戦です。準備は大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない。プレゼン資料は完璧だ。あとは君の話し方次第だな」

上杉の返事は相変わらず簡潔だったが、良太はそこに信頼のニュアンスを感じ取った。

午後の仕事を終え、良太は急いで帰宅した。シャワーを浴び、軽く夕食を取ると、パソコンの前に座った。時計は6時50分を指している。

良太は深呼吸をし、オンラインミーティングルームに入室した。画面には上杉の顔が既に映っていた。

「よう、準備はいいか?」

「はい、万全です」

良太が答えると同時に、運営側のスタッフが入室してきた。

「皆様、お待たせいたしました。第一回「職場デスマッチ」対戦を始めます。本日の対戦相手は、田中チームです」

画面に新たな顔が表示された。40代くらいの男性と、30代前半の女性だ。

「それでは、まずは加藤・上杉チームからプレゼンテーションをお願いします。持ち時間は10分です」

良太は一瞬緊張したが、すぐに気持ちを落ち着かせた。彼は画面共有を開始し、プレゼンテーションを始めた。

「私たちが提案するのは、『思い出アルバム』アプリです。このアプリは、高齢者の方々の大切な思い出を現代のテクノロジーで蘇らせ、さらには認知症予防にも役立つ画期的なものです」

良太は流暢に説明を続けた。上杉が用意した技術的な説明も、分かりやすく伝えることができた。

「...以上で、私たちの提案を終わります」

良太がプレゼンテーションを終えると、画面上の審査員たちが熱心にメモを取っている様子が見えた。

「素晴らしいプレゼンテーションでした。では次に、田中チームお願いします」

田中チームの提案は、高齢者向けの遠隔医療アプリだった。確かに実用的で、需要もありそうだ。良太は少し不安を感じた。

プレゼンテーションが終わると、審査員たちは熱心に討議を始めた。良太と上杉は、緊張した面持ちで結果を待った。

「審査結果が出ました」運営スタッフが声を上げた。「僅差ではありましたが、今回の勝者は...加藤・上杉チームです!」

良太は思わず声を上げそうになった。上杉の顔にも、珍しく笑みが浮かんでいる。

「おめでとうございます。次回の対戦は来週同じ時間です。引き続き頑張ってください」

ミーティングルームから退出した後、良太は興奮冷めやらぬ様子で上杉にメッセージを送った。

「やりましたね、上杉さん!」

「ああ、良かった。お前のプレゼンが良かったからだ」

上杉の言葉に、良太は心から嬉しさを感じた。

その夜、良太は興奮のあまりなかなか寝付けなかった。しかし、それは決して嫌な感覚ではなかった。久しぶりに感じる達成感と、次の挑戦への期待。それらが彼の心を満たしていた。

良太は天井を見上げながら考えた。この「職場デスマッチ」は、単なるコンペティション以上の何かになりつつある。それは彼の人生に、新しい可能性を示してくれているようだった。

目を閉じながら、良太は次の対戦に向けて、さらなるアイデアを練り始めていた。彼の人生は、確実に新しい方向に動き始めていたのだ。

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