1─16 章末
5年後──
魔王城は増築していた。
そこに勇者一行が再び魔王に戦いを挑んだ。更なるパワーアップをし、自信を胸に。
1階は前回と変わらずの迷宮だった。困難な罠とモンスターが行手を阻んできたが、前回よりも4時間以上早くクリアできた。
2階では四天王が待ち構えていた。相変わらずの強敵に手こずるも、それは単に勇者たちが体力と魔力を温存させて戦っていたからに過ぎなかった。
3階には五大天(結局作った)という四天王よりもまだ強いモンスターたちが待ち構えていた。しかも対戦方式は別室での1対1で、ペルシャだけが敗色が濃く、そこに早々と五大天の一角を打ち破った勇者が駆けつけて、ここもクリアした。
4階は三元狂。その三位一体のチームワークにだいぶ苦戦を強いられたが、勇者一行の15年のチームワークには及ばなかった。
最上階で魔王は、前回同様に勇者たちの体力を回復させてから、フェアに戦いを挑んだ。
そして魔法書からデビキンをしかも2体も出現させた。1体でも大陸を滅ぼすと恐れられるデビキンを、しかも2体も。それだけ魔王もこの5年で遙かに強くなっていた。
「さあ、勇者よ。これが俺の今の最大魔法だ。倒せるかな?」
勇者と魔王による戦いが始まった。
熾烈を極めるその戦いは、実に半日に及んだ。
勝者は──
◇◇◇
「……どっちでもいいんだ」
ミヨクはそう言った。相変わらずのボサボサ髪で、口の周りには薄っすらと髭を生やして、台所で料理を作りながら、不意に。
「えっ? ミョクちゃんどうしたの、急に? なんの事?」
食卓に座っていたマイちゃんがそう聞いた。
「うん。今ね、魔王と勇者たちが戦っているんだ」
「えっ? そうなの? えっ、なんで、なんでミョクちゃんにはそれが分かるの?」
「魔王と勇者の事は気にしていたからね。2人が再び戦いを始めたら俺に分かるように予め魔法をかけておいたんだ。そして、多分そのどちらかの時間が止まる」
「……死んじゃうの?」
「うん。たぶんね。2人は勇者と魔王だからね」
「どっちが死んじゃうの?」
「それは、俺たちが知る必要はないよ。特にマイちゃんはどっちが死んでも悲しいでしょ?」
「うん。すごく、すごく悲しい」
「それはあまり良くない事だからね。何故なら俺たちは世界の争いにはあまり干渉していない立場だから。なのに敗者の死だけを悲しむのは少し変だからね」
「ミョクちゃんは悲しくないの?」
「オアの大陸の1つの争いが終わる。それだけの事だよ」
「でも、でも、でも──」
「うっせーぞマイ! ミヨクが悲しむなって言ってんだから悲しむんじゃねえ!」
そう怒鳴り声を張り上げてきたのはゼンちゃんで、けれどその瞳には──
「ゼンちゃんこそ泣いてるじゃん」
「なっ、泣いてねーよ! なに言ってんだマイ? こ、これは、あ、汗だろーが!!」
「汗じゃないよ。汗は目から出ないんだよ。だからオラも泣く。ゼンちゃんと一緒にオラも泣く。いいでしょ、ミョクちゃん?」
「いいよ。それだけゼンちゃんとマイちゃんが魔王と勇者の事が好きだったって証なんだから」
ミヨクはそう答え、ゼンちゃんとマイちゃんは目一杯に泣いた。どちらが死ぬのかは分からないけど、どちらが死んでも等しく悲しいから。
ミヨクはそんな2人の様子を眺めながら、出来上がった食事を食卓に運び、そして食べ始めた。
そして心の中でボソリと呟いた。
俺はいつまでこうして世界を見続けなければならないのだろうか……。
と。
死……。
あるのならば、俺も……。
と。
「なあ、ソクゴ……」
ラグン……。
──第一章。終──
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