1─14
魔王は考えていた。
次に作成魔法で作り出すモンスターをあれこれと。
それは物作りに似ていた。あそこにあれを取り付けたらあれが動いて、でもその代わりにあそこの動きが悪くなって、補うにはコストがかかって、だったらああすると、でもそうすると魔力の循環が悪くなって……うーん、だったらどうしようか、と、あれこれと。
脳に疲労が蓄積されてきたのでティータイムに入る事にした。この時の為に作成したテーブルと椅子とティーセット型のモンスターたちを使用して。
ふうっと息を吐くと魔法書をぺらべらと巡り、「429頁まで埋まったか」と呟いた。それにしても初めの方に載っているモンスターは作成魔法の初心者らしい酷いものばかりであった。スライムなどは本当は限りなく液状にしたかったのだが知識と技量が足りずにゼリー状になってしまい、故に敵の攻撃も当たりやすく弱くなってしまった。
「四天王もな……その後で作った四天王の右腕的な立ち位置のモンスターの方が実は強いんだよな……後で作ったからな……調整して弱くしているけど。そうだ、いっそのこと四天王の上に五大天とか作るかな。いや、そうすると勇者達の絶望感が増すよな……」
なにか科学者や研究者のように悩む魔王であったが、彼はふと最後に変な事を言った。
絶望感が増すよな、と。それは話の流れから、そうはしたくないよなとニュアンスが込められている妙があった。
矛盾。しかし実はその矛盾こそが、魔王の魔王である為の存在理由であった。
最終的には勇者によって倒されたい。
──それが彼の望みであった。
魔王はこの大陸の国々の平和を願っていた。その為に国々の前統治者たちを打ち滅ぼした。1人の魔法使いによって混沌としていた大陸を毒を持って毒を制するように力と恐怖で支配した。混沌よりも1人の絶対悪の方が平和への近道と考えての事だった。魔王という呼び名も大陸中に分かやすい悪として示したかったから付けたに過ぎなかった。
恐怖(魔王)は希望(勇者)で滅ぶ。希望とは平和を祈る人々の願いなのだから。
それでも現在までに30年かかった。魔王が生命を得てからは実に94年。それほどまでにこの大陸に染み付いた混沌はなかなか収束しなかった。
現在の三代目勇者で、だいぶ良い構図が出来上がってきた。運の要素もあるから当の勇者本人たちは意図していない事かもしれないが、国々が魔王と勇者の対立を明確にしていき、今では勇者の為に手に手を取り合って一致団結していた。
ここに、魔王対勇者率いる国々、が極まる
それがこの大陸の今の現状にして魔王の望みの集大成であった。
あとは魔王が勇者に倒されればこの大陸にはもれなく平和がやってくるのだが……。
「強くなりすぎてしまった……」
魔王はそうボソリと呟いて頭を抱えた。
それは自らがもつ作成魔法の飛躍的な進歩による賜物であった。
魔王は2つのミスを犯していた。
1つ目は、魔王は勇者たちを強くする為にモンスターを作っては戦わさせていたのだが、勇者たちのその時々の強さに合わせて丁度良いモンスターをぶつけていくのはなかなか難儀な事で、だからこそ魔王は試行錯誤を繰り返して、その結果、知識に溢れ、どんどん作成魔法のレベルが上がっていたこと。
そしてもう1つ目が、その最中でモンスターを作るのが楽しくて楽しくて仕方なくなってしまった事。特に強いモンスターを作る事が。
「勇者一行が5人で戦っても苦戦する四天王の一角のゴクノヤミキシを、俺の魔力が尽きるまで出現させる事が出来たらダメだよな……」
とは分かっていながらも、魔王の探究心はもはや境地に立っており、故にもっともっと強いモンスターを作りたいと欲望に駆られてもいた。
「四天王と五大天(仮)は魔法書(正式名称はヨミの書)に載せた時に丸々1ページを使った。それは単純にモンスターの強さを表してる。だったら見開きはどうなる? 今の俺なら作れるような気もする。見開きモンスターを。いや、正直、作りたい……」
でもそれは作ってはいけない。強すぎるから。
──でも、作りたい。溢れるこの知識と魔力を全力で注ぎたい。
故に魔王は──
1週間の時間を費やして──
見開きモンスターを作った。
デビルキング。通称、デビキンを。
全長は5メートル。1つの首に顔が4つあり前後左右を向いている。顔には菱形のようなマークが菱形に4つ並んでおり、それらは全てが目の役割をしていた。身体は黒いローブのような物で覆っていて、さしずめ見た目は黒いてるてる坊主のようであった。
だがその魔力は、そこに存在しているだけで大気がビリビリと恐れ、地が揺れる程に強大であった。
「ヤバいな……」
魔王はそう言った。
「──魔力が俺を超えている……」
と。
それは大変に困った事であった。何故なら作成したモンスターは先ずは魔王が倒すという決まり事があり、それが出来なければ作成したモンスターを配下に置く事が叶わず、本能の赴くままに自由に暴れさせる権限を与えてしまうという事になってしまうのだから。
「倒せるのか……?」
しかし戦うしか選択肢はない。仕方なく取り上えず魔法書からゴクノヤミキシを出現させた──が、デビキンがすぐに顔にある菱形のマークの1つから黒い光線を放ってきて、直撃した瞬間にいとも簡単に消滅させられた。おまけに魔王の魔法で補強されている頑丈な城の床まで容易く貫いている。
魔王はゴクノヤミキシと他の四天王と五大天(仮)を10体ずつ出現させて総力戦に挑んだ。
死闘は1時間に及んだ。その間に城は崩壊し、大地も形を変え、海も怯えるように荒れた。
勝者は──魔王の魔力が尽きた事で決した。
「不味いな……この魔力……大陸が滅ぶな……」
魔王はそう言うと力なく前のめりに倒れた。
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