1─13


 マイちゃんは怒っていた。


 ミヨクとゼンちゃんと勇者一行の談笑が翌日の昼まで続き、その間に「なんでこのぬいぐるみはずっと泣いてるの、キモッ!」とミナポに心無い台詞で心を抉られ、それでも絶えずゼンちゃんからは圧力をかけられ、それでも必死に耐えて、もう怒りがピークに達していた。


 だからマイちゃんは勇者一行が、「楽しかった。食事もありがとう。結局は寝れなかったけど、体調は復活した。だからそろそろ旅に戻るよ。ありがとうミヨク。また来るよ」と物凄く良い雰囲気で去っていった後で、遂にキレた。


「さあ、どうしようか! オラも知らないよ!! こんなに怒った事ないからね!! ヤバいよきっと。いろんな物とか破壊しちゃうよ! 止められないよ今のオラは! あーあ、あーあ、どうなっちゃうんだろうね! 大爆発! 大爆発だよ、きっと。あーあ、あーあ、ミョクちゃん、ゼンちゃん、覚悟してね! オラの怒りはもう止まらないんだからね!!」


 ぶーぶーぶーぶー。


 そんなマイちゃんにミヨクはこう言った。


「ごめんねマイちゃん。お詫びに今日はゼンちゃん抜きで2人でお出かけしようか」


 と。


 すると、


「えー、いいの! する。する。やったー! オラ、超うれしい!!」


 とマイちゃんは物凄く喜んだ。


「やった、やった、ミョクちゃんと2人、ゼンちゃんが居ない。やった、やった」


 嬉しさのあまり謎のダンスまで披露してくれた。まあ、それはゼンちゃんの怒りを買う結果となり、また背中を蹴られて泣かされてしまったのだが。


「って、マイ、お前なんでいつも泣くんだ?」


 暴力を振るった張本人がふとそう聞いた。


「──だって、お前の肉体構造はオイラと同じで綿だろ? ふわふわの綿だろ? 痛くないよな?」


「ショックなんだよ!」


 マイちゃんはそう声を張り上げた。


「──暴力をされると凄くショックなんだよ! なんでゼンちゃんはそういうのが分からないの? 頭の中まで綿なの? 心の中も綿なの? いっつもいっつも信じられないんだけど」


 と、マイちゃんは必死に訴え始めていたが、当の本人は「へーへーうぜーうぜー」とあまり聞いていないようだった。


 そんな2人の様子を見ながらミヨクもふと思っていた。そういえば2人の頭と心って何で出来ているのだろう? と。綿なのは確かなのだけど、それ以外は何で? と……けれど答えは分からなかったので、取り敢えず魔法。の一言で済ませる事にしておいた。


「ところでミヨク、どこに行くんだ?」


「うん──」


「あっ、ダメだよミョクちゃん。ゼンちゃんには教えないで! 2人だけの秘密だよ。ゼンちゃんなんかに教えないで、約束だよ」


「……だってさ、ゼンちゃん」


「ふんっ。まあ、いいよ。オイラは留守番していればいいのか? それとも魂を抜いていくか?」


 その問いにミヨクは掌に魔法で砂時計のような物を出現させ、その砂の溜まり具合を確認しながら「もうすぐ、時間を止める魔法が使えるようになるから、ゼンちゃんの魂は抜いて行くね」と答えた。


「分かった。じゃあ気をつけてな」


 ゼンちゃんはそう言うと瞳(の絵)を閉じ、そこにミヨクが手を翳しながら魔法を唱えると、魂が抜け、ただのぬいぐるみとなりコテって横に倒れた。ミヨクはそれを赤い椅子に座らせると、「さて、行こうかマイちゃん」と言った。


「──魔王に会いに、魔王城へ」

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