1─3
2ヶ月後──
勇者一行は標高2000メートルの険しい山を越える事に成功していた。実に2週間かかった。
「はあ…はあ…はあ……やっと、やっと終わったな」
戦士マードリックはしみじみとそう言った。途中で魔獣に襲撃されて鎧と盾が粉々に破壊され、今さっき剣も役目を終えたかのようにぽっきりと折れた、そんな難度の高い攻略に達成感よりも憔悴しきった様子で。
「はあ……はあ……。魔王の作ったモンスターも厄介だけど、魔獣もまた知性が低くて統制されてない分やり辛いわよね……ほんとチクショーね」
オシャレ魔道士のミナポは魔力が枯渇した事よりも、代々受け継がれてきた杖が壊れた事よりも、先月買ったばかりの三角帽子とオレンジ色のハイヒールがボロボロになった事を実は猛烈に悔やんでいた。
「いや、山登りにハイヒールは無理だって事前に何度も言っただろ?」
「仕方ないじゃない。マードリック。私は山登りを舐めていたんだから。まさかこんなに道が険しいとは……まさか頂上があんなに寒いとは……思ってもみなかったわよ!」
マントとノースリーブニットと膝上くらいのひらひらスカート……。
「いや、寧ろ凄いよ。よくそんな格好で山を越えたよな。しかも服とスカートはほとんど無傷だし」
「当たり前じゃない。そこは魔法で絶対に死守よ。アンタ達に見せるほど安くないんだから私の裸は!」
「……ペチャパイだからだろ。ふっ」
2人の会話に割って入ってきたのは白いローブ姿の男で、名をペルシャといい、最近魔道士に転職をしたばかりの元は遊び人で、魔道士になった途端にそれまでのバカっぽい喋り方を止め、何故か眉間に深い皺を刻みながら頭の良さそうな喋り方をするようになり、それが仲間たちから大不評だったのだが、本人は気づいていなかった。
「──安すぎるから見せたくても見せられない。タダより怖いものは無いってやつだ。ふっ」
口調や表情を取り繕ってもペルシャは基本的にバカだった。
「取り敢えず杖が壊れてなければ殴ってるとこよね。何が言いたいのかが分かるようで分からないから余計にね」
勇者一行の勇者以外による簡易的な紹介のような団欒──その終了を告げるように勇者が咳払いを一つした。
「ごほん。お前たち、そろそろいい加減にしろ。それより見ろ、噂通りならあそこが時の魔法使いの住処だ」
勇者一行が登って下ってきた2000メートルの山を背にすると、眼前には僅かな陸地とそれを囲む広大な湖があった。その陸地に灰色の真四角い建造物があり、そのまるで気配を消しているかのように静かに佇んでいる不思議な存在感は、故に魔法によるものだと推察ができた。
「……そこに有るんだけど無いような、そんな不安な気持ちにさせられる嫌な感じね」
「確かに。中に入るのに躊躇しちまうな……」
「知ってるか、躊躇とためらうって同じ漢字を使うんだぞ。ふっ」
「ためらって……い、いや、今は足を止めている時じゃないさ。行くぞ皆」
そうして歩を進める満身創痍の勇者一行。ただこの時、1人を抜いた3人は同じ事を思っていた。
──ああ、コイツ(ペルシャ)は遊び人のままの方が扱いやすかったな……。
と。
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