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不死であるミヨクの時間が巻き戻る。今回で実に5度目の経験だったのだが、顔面が潰されて殺されるというのは死ぬほどに痛いものであり、精神的にも死ぬ程に辛いものであり、そこから時間が巻き戻って蘇ったとしても、その恐怖からはすぐに立ち直れなかった。
──が、そんな事で落ち込んでいる暇はないようで、例の如く15歳から18歳くらいの年齢でハッと目を覚ますと、そこには大の字で天を仰いでいるラグン・ラグロクトがいて、そこにソクゴとファファルが突如として現れて、瞬時に作戦その2の成功を悟った。
故にミヨクは間髪を入れずにラグンの側頭部に掌を置き、そして魔法を唱えた。
時の魔法、
「ヨリ・ロ・コンネン・ネ《絶対快眠をあなたに》」
を。
──刹那、ラグンの呼吸が生を求める強いものから穏やかな寝息に変わった。そして眠ると、ラグンの真っ黒い左腕は他の肌と同色になり、恐らくその特殊能力も失われると考えられていた。
そこにソクゴが、すぐに魔法を繋げた。
封印の魔法、
「ツーショーシト《お静かに》」
を。
──刹那、ラグンの顔を光の球体が覆い、それが瞬時に幾重にも重なっていきその厚みを増していった。
最後にファファルも魔法を唱えた。
空間の魔法、
「シネ《死ね》」
を。
──刹那、ラグンの顔を覆っている光の球体ごと、突如として出現した夜の闇のようなものが覆っていき、やがて身体の全てをも飲み込み終えると、1枚の木製の扉へと姿を変えて、バタっと地面に倒れた。
そこにラグンの姿は無く、ソクゴが「完了だな」と言った。
◇◇◇
ミヨクの時の魔法は、対象者を物凄く快眠させる事ができた。もう寝たら一生起きられないくらいにそれはそれは安らかに。ただそれでは普段の使用時に永眠となってしまう可能性(ミヨクが魔法をかけた事を忘れた場合など)もあった為、強い衝撃を与えると魔法が解けるように予め安全面に配慮されていた。過去には割と強めに寝返りを打ったら起きたという事例がある程に。
──ただし、強い衝撃がなければ絶対に起きられない。それは絶大な魔力を誇るルアでさえも例外ではないのは既に実証済みだった。
そこにソクゴが封印の魔法でラグン・ラグロクトの快眠を完全に守った。あらゆる天災や外敵による攻撃からはもちろん、埃や虫が肌に触れてむず痒くなりそれを無意識に手で払う衝撃からも。光の球体を分厚く重ねたのはラグンの左腕があらゆる魔法を無効にするが故の苦肉の策なのだが、前述の通りにラグンの左腕は眠った事により多分その特殊能力を失っており、もし仮に左腕の効力が失われていないにしても、自身でも特殊だと分かっているであろう左腕を無意識に動かす事はあり得ないと考えていた。寧ろ迂闊に左手で自分の身体のどこかに触れたら神獣の恩恵である自己治癒能力を失うんじゃね、とも思っていた。更に空腹で目を覚ます可能性も危惧して、適度な栄養補給も出来るようになっていた。
──ソクゴの封印魔法は完璧な快眠を約束した。
そして、それをファファルが空間の魔法でこの世界とは別次元に空間を作り、誰の目にも触れられないように閉じ込めた。しかもそこは寝返りを必要としない心地よい浮遊空間で、音も光もなく、もう死んでいるのか生きているのかも区別がつかないくらいに安らかな場所であった。
──自力では2度と起きてこられない程に。
ラグン・ラグロクト。強制永眠完了。
「いや、まだだ」
ミヨクはそう言うと、ファファルの空間の魔法で作られた扉に掌を重ねて、「ゴ・シト・オノツ・タ《この扉の向こうは超スローモーション》」と時の魔法を唱えた。
これにより、ファファルが作った空間の中の時間の流れが物凄くゆっくりになった。思わず止まっているかと錯覚する程までに。
これは万が一の対策であった。もしもラグンに宿る神獣の恩恵が自己治癒能力だけではなく、不老不死、もしくはそのどちらかが含まれていたとしたら、という最悪に備えた。
永眠時間の延長。1秒を100倍以上(推定)とする事で、万が一の目覚めを限りなく引き延ばしたのだ。
これにて、ラグン・ラグロクトの完全永眠完了。
「俺が不死っぽいから、ある話なんだよね、ラグンの不老不死も」
ミヨクはそう言った。だが先程の爆発で誰もの鼓膜は破れており、ソクゴはジェスチャーでそう示した。
「……いや、お前ら世界で最高レベルの魔法使いだよね。すぐに魔法で治癒できるよね?」
ミヨクが呆れ顔でそう言うと、ソクゴがすぐに「冗談だ」と笑い、ルアは「いや、わら(一人称)はとっくに」と答え、ファファルは咄嗟に背を向けた。
──そのファファルにミヨクは「やれやれ、お前は治癒魔法は苦手なのか。仕方がないから俺が治してやる」と近付いて行き、その心の中ではこれで恩を着せて仲良くなろうと邪に(もう殺されないよう)企てていたのだが、彼女の前に回り込んで掌で両耳に触れようとしたその瞬間、バチンッ! と頬を叩きつけられた。しかも顔が90度に曲げられる程に本気で。
「あっ……」
「あっ……」
ルアとソクゴが思わず単発音を漏らし、暫しの沈黙が訪れた。
「だ、駄目よ……。ファファルは男性嫌いなんだから。今回の共闘もわらが凄く頼み込んでやっとだったんだから……駄目よ、迂闊に近付いちゃ」
ルアがそう言い、ミヨクは頬を押さえながら瞳に涙を浮かべ、その様を見ていたソクゴが「クハハハハッ!」と豪快に笑い、ファファルは空間魔法を使ってその場から消えていった。
「おっ、泣くか? 泣くのかミヨク? クハハハハッ! ってか、それよりも本当に若返るんだな? 半信半疑だったが、びっくりだ! 白髪まで若返りやがって、羨ましいなオイ。ただ、ガキすぎねーか? クハハハハッ!」
「……たぶん15歳くらい。だからかな……精神的に弱くなった感じがする。ビンタ一発で泣きそうだ……」
「クハハハハッ! さっきはラグンに顔面を潰されて殺されても泣かなかったのにな、クハハハハッ!」
「……泣く暇がなかっただけだ。って笑い過ぎだソクゴ。今はこんなんだけど俺はお前より200歳くらい歳上だからな」
「うるせー、ガキ! クハハハハッ!」
また始まったそんな2人のやり取りをルアはただ冷ややかに眺めていた。いつ終わるんだろう、この間抜けなノリ……と。
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