3
ルアの魔法は一撃必殺であった。
願うだけで確実にそれを破壊をした。
そこに例外は無く、あらゆる全てを破壊した。
ただ、矛盾はあった。
何故なら、ラグン・ラグロクトの闇のように黒い左腕はあらゆる全てを無とするのだから。
例外と矛盾。
──だが、ルアのその魔法はそもそも相手に触れる必要がなかった。
それはラグン・ラグロクト側の例外であった。
壊れなさい。
と、ルアはラグンに視線だけを向けたまま心で願った。
すると、
ドオオォォオーーンッッ!!
と激しい音と爆炎が巻き起こり、大地も激しく揺れた。
前触れなしの爆発。しかもその起爆剤がラグンの身体そのものであったかのように、そこを中心に爆発が起きた。
破壊魔法。ルアは目で見て心で願うだけで、どこでも瞬時に爆発をさせる事ができた。しかもその威力は前述した通りに二撃目を必要としない程に強大なものであり、対象物を確実に壊せるように自動化されていた。ただし願わない所が巻き込まれる事はなく、故に衝撃で大地が揺れる事はあっても、爆発の範囲は狭く、爆炎も一瞬であり、大地が削れたり破損したりする事もなかった。
──だが、ラグンの身体はそれでは滅びなかった。
一撃必殺のルアの魔法の理を無視。
これがルア側の例外であり、神の危惧するラグンという脅威のイレギュラー性だった。
頑丈すぎる身体。今回の威力が世界を滅ぼすのと同等の威力だったにも関わらず。
──だが、それはルアにとっては想定内の事であり、故に間髪を入れずに破壊魔法を2度3度と繰り返した。
ドオオォォオーーンッッ!!
ドオオォォオーーンッッ!!
と。
そこで初めてラグンは──ようやく歩を刻んだ。爆炎で衣服が灰になり、身体中の毛も燃えて失われたが、肉体は全くの無傷で、少し鬱陶しそうに眉間に皺を刻みながら、そして何事もなかったように歩き始めた。
素っ裸のまま、ルアに向かって、ゆっくりと前へと。
しかし、それに対してルアの表情にも特別な焦りの色はなかった。ただ攻撃の対象を少し変えた。
死になさい。
そう心で呟き、今度は心臓を直接破壊する事を願った。
ボッッッフォッッ!!
ラグンの体内から響いてくるその音は先程よりもくぐもっていて、爆発も目では確認が出来ないからこそ、その悍ましさを増長させた。
刹那、ラグンが口から血を吐き、歩を止めて、片膝をついた。
──が、その間は僅かに1秒だった。ラグンはすぐに立ち上がると、また歩き始めた。
頑丈。肉体の内側の心臓でさえも。
「……いや、そこは流石に神獣の恩恵かな。自己治癒能力……のしかも脅威的な速度のやつ」
ミヨクがそう言った。「──それにより心臓が完全に破壊される前に治癒能力が追い付くのだろうね、たぶん」と。そういえば、さっき燃えて無くなった筈のラグンの髪も既に伸びていた。
それでもルアはまたラグンの心臓に直接破壊魔法を放った。5度6度と。
しかし、それはただ吐血をして方膝を付く1秒が繰り返されるだけで、ラグンの前進の妨げにはならなかった。
「まあ、でも、これも想定内だよな。さて──」
ソクゴがそう言った。そしてそれが何かの合図だったようにミヨクが表情をキリッとさせて身構えた。ルアはそれを雰囲気で察して、それからラグンに向けてまた破壊魔法を願った。
今度は脳に向けて直接。
ドゴォオオォォオーーンッッ!!
脳から響いてくるその音は敵でありながらもソクゴの背筋がゾクッと震えた。
ラグンは、顔中の穴から血を溢れさせると白目をひん剥いて力無く真後ろにドサッと倒れた。
──が、その間も僅か1秒。ハッと目を覚ますと、立ち上がり──いや、身体を起こした瞬間にルアがまた脳に直接破壊魔法を放ってきて、また顔中から血を溢れさせながら白目をひん向いて後ろに倒れた。
しかも、今度は連続で。
ドゴォオオォォオーーンッッ!!
ドゴォオオォォオーーンッッ!!
ドゴォオオォォオーーンッッ!!
実はルアには魔力の枯渇というものが無く、制限なく破壊魔法を放ち続ける事が可能であった。
ドゴォオオォォオーーンッッ!!
ドゴォオオォォオーーンッッ!!
ドゴォオオォォオーーンッッ!!
その最中にミヨクがラグンに近づいていた。
そして掌をラグンに向けて、そこに時の魔法を放てば──恐らく勝てる予定であった。ラグンが刹那のタイミングで目を見開いて、その闇のように黒い左手でミヨクの手さえ掴みさえしなければ。
ラグンの左手はあらゆる魔法を無とした。
故に途端に魔法を無力とされたミヨクは、ラグンのもう片方の手で顔を掴まれると、そのままぐしゃりと握り潰された。
「1秒じゃ短いか……。強引に行けると思ってたんだけど……残念ながら失敗だな。1つ目の作戦は」
ソクゴがそう言った。実はこれもまだ想定内である、と。
2つ目の作戦開始。
ラグンが立ち上がると、今度は目の前にルアがいつの間にか立っていて、彼女は即座にラグンの両足のアキレス腱と心臓と目と鼻と口と耳と脳を同時に破壊させると、また気を失わせた。
しかし今度は倒れさせはしなかった。ルアはラグンの顔を両手で押さえつけると、そのままその唇に自身の唇を重ねた。
キス。ルアからラグンへ。
──もちろんこれはただの求愛行動ではない。あくまでも作戦その2。ルアは口と口を通じて自分の体内に秘められている全ての魔力をそのまま直接放とうしているのであった。
神に使命を与えられて作られた彼女の人間を遥かに超えた魔力の、その源となる強大なエネルギーを丸ごと。
それは、破壊魔法さえも超越した上限なしの一撃であった。
──刹那、ラグンの体内から激しい光が溢れた。その直後に爆発音が轟いた──が、その瞬間に誰もの鼓膜が破れた。
────────ッッ!!!
それでも爆発の範囲はラグンの身体だけで完結されていた。ただ大地を揺らす衝撃は先程の比でなく、世界全体が激しく揺れ、海が荒ぶり、ソクゴもファファルも、ルアでさえも尻餅をつかされた。
ラグンは──
いや、原型はまだ残っていた。
大の字になり天を仰いでいた。
呼吸は──残念ながらしている。肺が動いているのが目で確認できる。
頑丈すぎる身体に、鬱陶しいくらいの自己治癒能力。
生きている。
──しかし、これもまだルアたちの作戦その2の想定内であった。
時間稼ぎ。
「そのまま5秒は気を失っておけよ!」
ソクゴはそう言うと、ファファルに空間魔法をかけてもらい、共にラグンの元に瞬間移動をした。
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