第25話 シモダからの強烈な励ましに僕は‥
泣いている僕を見つけて抱きしめてきたシモダに、僕はうっかり好きな人に匂いが似ていると言ってしまった。そして相手が男だと気づかれてしまった。
しばらく黙っていると、シモダは特に反応はせず、ただ空を眺めているようだった。僕が話し始めるのを待っているのだろう。
「あの」
勇気を出して口にだした。
「いいよ」
「え」
「いいんだよ、別にな。オレだって、オマエえが好きなんだし。それと同じこと」
「そっか、ありがとう」
「礼言うのも違うよな」
「そうかも」
「ふふふ、ヨシダ、オマエやっぱり面白いな」
ヨシダは少しだけの笑みを浮かべて僕に近寄ってきた。
「なあ、悩んでるの、もしかして、その、好きな人のことで?」
確かにそうなんだろうけど、シモダが想像しているようなこととは違うと思うけど。
「まあ、そうだけど、でもいいよ。ありがとう」
「そっか、オレも悪かったよ。立ち入って」
この場を取りつくろうためではないけど、客観的に聞いてみたい事があった。
「シモダくん、変な事聞くけど、結婚して、子供ほしいって思う?」
「何?突然」
「ごめんね」
「いや、別にオレはまだ考えたこともないよ。どっちも」
「今ではなくて、将来」
「あー、別に結婚とか子供とか、ほしくないかな、想像できない」
それは予想通りの返答だった。僕たちにはまだ早い話すぎることだから。
「ヨシダはどうなの」
「僕もまだ、全然。でもね、好きな人の子供はほしいなって」
「ああ、それはわかるな」
「結婚もしたい。好きな人なら」
「だよな」
「でも、今の人とはそれはできない」
「ああ、、そうなるか」
「僕は別にいいけど、相手もそうなってしまうんだろうなって。このまま行けば。普通の人みちたいな幸せなことが、手に入らないよね、いいのかなって」
なぜかシモダはしばらく黙った後に、更に僕に近づき、顔を覗き込んできた。
「ヨシダってさ、ほんといい奴なんだな」
「え?」
「だってさ、自分のことより相手のこと、考えてるんだよね」
「そうなるのかな、そうかもしれない」
「もしかしたら、悩んでたのって、その事?」
しばらく答えを考えたけど、クラクラしてきてしまって。この流れに乗ることにした。
「うん。そうだよ」
シモダは僕の身体にそっと手を回してきた。そして優しく囁いた」
「つらいな、それ」
その言葉に涙が出そうになってしまって、うつむいてしまった。それは悲しさとは違うもの。安心したのかもしれない。
「その人に話してみたらどうかな、自分の中だけでは解決できないと思う」
僕の目を見て、彼はそう言った。
「確かにそうだね」
「もしかしたら、オレと同じ。結婚も子供もほしくない人なのかもしれない」
「かもしれないけど、確かに聞いてみたり、話したりしないとね。シモダくんの言う通りかも」
「ああ、ちょっと笑ったかな、良かった」
「ありがとう」
するとシモダは僕の身体をまた抱きしめてきた。しかし声は優しく話しを続けた。
「悪い、今はオマエのこと友達として抱いてる」
「友達として?」
「ああ、そう。さっきとは違う。頑張れって気持ちで抱いてる。
「そう・・か」
「あの、ヨシダのこと、まだすげー好きだけど。もう入りこめそうにない。だから」
ヨシダは僕を引き離して、目を合わせてこう言った。
「なあ、またオレと仲良くしてくれない?最近距離があったけどさ、前みたいに」
「うん、いいよ」
「やった、普通に友達になったらオマエのことを変に思わないかもしれないし」
シモダの顔は笑っているのか、そうではないのか、よくわからない表情になっていた。
「わかったよ。前にみたいにね。仲良くしよう」
「うっしゃ」
両手でガッツポーズを取る姿を見て、僕はしみじみ思った。
「シモダくんっていい人だよね、やさしい」
「ヤバい、オレのこと好きになった?」
「いや、友達として。そう思った」
「なんだー、でも良かった、あ、ヨシダの今の笑った顔かわいい」
「やめてよ」
こうしてこの日のシモダとの会話が終わった後に、僕はあることに気がついた。
僕の好きな人が、兄だとは伝えなかった。でも、それがきっと正解なのだろう。
何にしても、他人に自分達のことを話せたということは、何かに縛られているような感覚から逃れられたということは事実だった。
でも、リョウジにこの事を話すことは無いのだろうと、僕は確信していた。この思いは一生消えることは無いのだろう。
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