第16話 シモダが頭ポンポン
「彼女と会うことになった!」
シモダからメッセが届いた。今朝とつぜんアドレスを教えてくれと言われて交換したばかりだったけど、そういう事だったのか。まだ他には明かしたくないのだろう。
その文章のあとにはハートマークがたくさん付いた笑顔満開のクマの絵のスタンプもついてきた。なんだかイメージが違う。こんなやつだったのか。
「よかったね」
と、文章だけで僕は返した。
すると、親指を立てたクマのハートマークが沢山のスタンプを送ってきた。
ああ、良かった。これで一段落なのだろう。
僕はまた外を見た。
昨夜のリョウジのことを思い出していた。
シモダのことがあったからか、寝る前のリョウジは僕に強烈に甘えてきた。ショウくん、オレのこと捨てないでと。あの大きな肉体を僕にすりよせて。。猫みたいで可愛いなと思い、僕はひたすらリョウジの頭をさすった。するとうなり声を上げていた兄のことを、思い出していた。
その思いを遮るように、グラウンドから活発な声が聞こえてきた。僕が考えていた世界とは全く別の世界からの音だ。通っている学校の音の何気ない音なのに。
自分はこれでいいのだろうか、リョウジとの事はいつも暗い部屋の中での出来事なのだから。
罪の意識というわけではないけど、声援と青空が僕の心を突き刺すような気持ちになった。
すると、シモダが席を立ち、後ろ向きに座って、腕を組んで僕の方を見てきた。
「あの、昨日のこと」
気まずそうだけど、どこか微笑んだ感じで話しかけてきた。
「ああ、あのこと」
帰り際にキスしたことなのだろう。
「怒ってる?悪かったよ」
「別に、もういいよ」
「マジか。なら、良かった」
どう返していいのかわからなかったので、黙っていたら、シモダが僕の頭をポンポンと叩いて思いっきり微笑んでいた。そしてしばらくシモダは微笑んだまま、僕は無言のままでいると
「おい、オマエら、なんか仲良すぎじゃね」
と横からクラスメイト達の声が聞こえてきた。どうやら笑われているようだ。
「できてんじゃねーの」と2、3人が少し騒いでいた。
するとシモダは席を立ち
「ちげーよ。オレさ、彼女ができたの」
「おお」「すげえ」「マジで」
と奴らから歓声が上がった。
「だからさ、ヨシダにいろいろ相談してもらってたの。な?」
「うん」
なんだ、と納得した素振りで、それぞれの雑談に戻っていった。
「フフ」
シモダは安心したかのように背伸びをして、また席に座った。そして
「言っちゃった」と囁くようにつぶやく。
すると「あんさ、今日もまた昼一緒にいかない?」と聞いてきた。
「ああ、いいよ」
「よっしゃ」
僕はこの流れについていけなくて、戸惑っていた。
なぜか自分の頭をポンポンと叩いてその気持ちをごまかしていた。シモダのことを、少し思いながら。
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