第14話 新婚兄弟の1日 昼の部:愛の宅配ピザ
新婚兄弟の1日 昼の部:愛の宅配ピザ
腹減った!
そのような無粋な声で僕は目覚めた。その声はもちろんリョウジから。
「ううう」なんてうなり声も上げている。これは相当なものなのだろうと察して、僕も起き上がった。
「大丈夫ですか」
「いや、だめだ しにそう」
「大変」
愛しい兄を餓えさせてはいけないな、と素直な自分を発動させて台所に向かった。しかし、
「何もないです、作れない」
「マジで」
リョウジも起き上がって台所付近まで来ていた。
「マジです」
「これは、何か頼みますかね」
「いいね、そうしよう」
「じゃあ、ピザはどうですか」
「お、いいね、ピザだいすき」
「だろうと思った」
そして、なぜかピースを作って差し出してきた兄。やっぱりかわいい。。
「どこに頼もうかな」
僕はスマートフォンを取り出して、机に座って配達ピザ屋を探し始めた。するとリョウジが横に座って覗き込んできた。
「どこにする?なんでもいいけどねオレは」
「わかりました」
「うーん、ショウくんでもいいよ」
「何いってんですか」
「うーん」
今度は僕の肩に頭を寄せてきた。今日はちょっとおかしいかも。
「ピザはマルゲリータでいいですかね」
「マルゲ、マルゲってなに」
「トマトとチーズだけのシンプルなやつです。マルゲリータ」
「そのマルゲなんとかリーでいいよ」
手続きを進めていると、今度は僕を見つめている様子だった。
「なんですか」
「かわいいなって。なんかすごく、ショウくん」
うれしいけど、今更このタイミングで何故こんなことを言うのかわからなかった。
続けて入力をしていても、まだ見てくる。なんだろう。
「なんですか」
「いや、やっぱり・・」
「かわいい?」
「うん」
急にテーブルに突っ伏せてしまった。こんなリョウジの方がかわいいのに。
「止まんないから」
リョウジがパッと起き上がって、それだけを呟いて、部屋の方に戻ってしまった。
明らかにおかしい。
「あ、注文終わり。30分から40分くらいかかるみたい」声を大きめにしてリョウジに言った。
「ありがとう、まあ30分くらいなら、イチャイチャしてたらあっという間だね」
「そうですね・・」
「そうだ。配達のやつ、ショウ君に襲ってきたらどうしよう」
「なわけないですよ」
「オレが倒すから大丈夫!」
すると、リョウジはボクシングみたいなファイトポーズでエアパンチを繰り出し始めた。
シュッシュッと口か音を出しながら、真剣にパンチを出しているリョウジを見ていると、あることを思い出した。
それは「止まらないから」と言っていたこと。今がそうなのだろう。前からそう言っていた。
だったら、受け止めてあげなければいけない。僕はリョウジの元へ向かい、隙を見て正面から抱きついた。
「ショウ・・」
リョウジは大人しくなり、僕の身体に手を回してきた。
「こうやって、抱きしめられるのが一番好き」
「うん?」
「包まれてる感じがして。リョウジの大きな身体に」
「オレも、好きだよ、全部ね」
僕は返事とばかりにリョウジの胸にひたすら顔を擦り寄せた。リョウジの手が僕の頭をさする。
すると
「ねえ、配達のやつに、オレたちがイチャイチャしてるの、見せつけない?」
「ええ?」
「フフフ」
「いいよ」
「え?ショウ、どうしたの」
「好きだから」
「よっしゃ」
「冗談だよ、でも、いいよ」
リョウジは急に僕にキスをしてきた。間髪入れずに。
実は宅配ピザは置き配指定をした。やがて静かに届けられるのだろう。だからずっとこのままでも良かった。
だけど僕の気持ちは本当だった。今のこの気持ち、ほんとなのだ。
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