コリウス
花屑かい
コリウス
「えーまぁ、いるちゃいるかな」
オレンジの夕日が彼女の肌を色付ける今、私は体中に響き渡る心音が彼女にまで届いていないか気が気では無かった。
「え!? 誰、イケメン?」
私の胸の内を知らない彼女は、瞳に星を輝かせながら聞いてくる。
「うーん、イケメンっていうか可愛い? いや、イケメンかも?」
言葉は意外にもスラスラと出てくるもので、私は隠さずに伝える。
そう可愛くもありイケメンでもあるのだ。本人は全く自覚していないようだけれど。
お弁当を食べた時の幸せそうな顔、そのお弁当を私にくれる所とか、私が転んだ時本気で心配してくれる所とか。
「可愛い系か……。はぁ、わたしもとうとう先を越されるな」
「いや、まだ付き合ってないし」
「いやいや、あんためっちゃ良いとこいっぱいあるし、告白したらすぐ付き合っちゃうよ」
めっちゃいいとこいっぱいあるし──彼女の言葉が私の中で反芻する。
「あは、今想像したでしょ。にやけすぎ」
彼女は面白そうにころころと笑う。
顔に出ていたらしい。反射的に口を手で覆う。
「な、にやけてないし! 想像もしてない! そもそも告白なんてしないし!」
我ながら少し子供っぽすぎたか。彼女の前になると思わず子供の頃の自分が少し顔を出す。
この時間がずっと続けばいいのに。そんな安っぽい恋愛映画のセリフに共感してしまうほど私の心はじんわりと暖かかった。
でも太陽は沈んで、その頃にはお互いがお互いの居場所に戻ってゆく。彼女の居場所が自分では無い。いつもと変わらないのに、今日はちょっと寂しかった。
「えー、勿体ない。リア充の階段を登れるってのにさ」
彼女の指人間が階段を登るように、空を踏んでゆく。
「告白なんてしたら引かれるよ。振られたら友達以下になるんだよ?」
「引かれるはないと思うけどなぁ。私だったら頑張って伝えてくれたんだなって思うけど。そ、れ、に、付き合ったら友達以上だよ」
「いや、そうだけどさぁ」
わざとらしくため息をつく。私には友達以上になる事よりも、友達ですら居られなくなる方が耐えられない。
「じゃあ直接告白するんじゃなくて、匂わせる! あの人オレのことすきなのかなって!」
「それなら現在進行形でやってる」
さっきと矛盾している行動だった。分かっているのにこの気持ちを捨てられない。
きっと振られて、気まずくなって、優しいあの人の事だから無理して話しかけてくれるだろう。それと同じくらい付き合った時の想像をしてしまうのだから、本当に自分は阿呆だな。
「まじ!? 相手は意識してくれてんの? 向こうから告白されちゃったりする?」
「ないない」
飛躍した考えに笑いながら、手を振る。
「それに、向こうは全く気づいてないし」
「いやいや、気づいてるかもよ〜。あっ、そういえば相手って誰なの!? 可愛い系って言ったら隣のクラスの……誰だっけ、確かさから始まる──」
ほら、気づいてない。
コリウス 花屑かい @hanakuzu_kai
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