第6話 妹の演劇発表会
夏休みに入ってすぐ、妹の小春の演劇発表会がある。お父さんとお母さんは仕事で見に行けないから、小春は私に見に来てほしいと言われ、発表会が開かれる母校でもある小学校に行くことになった。小春は小学校にある演劇クラブに所属していて、私はまだ小春の演技を見たことはないけど、かなり上手らしい。そして今回の劇では4年生ながら主役を務めるそう。私と違って人前で話すなんて立派だなと思う。
演劇発表会の前日、夕食を食べながら
「お姉ちゃん、明日私が主役だから絶対見に来てね!悪者を退治して私の手で街を救うの!」
と、テンションが高い小春。
「分かったよ、楽しみにしてるよ」
「お姉ちゃんに手振るよ!」
「いや、劇に集中して」
そんな会話をした。小春は、夕食を食べた後劇のセリフを何度も読む練習をしていた。
「お姉ちゃん、劇は明日だからまだセリフ聞いたらダメだよ!」
そんなこと言われても、部屋は姉妹同じだから聞こえてしまう。私はヘッドホンで音楽を聴きながら、夏休みの課題を進めていた。
演劇発表会当日。私は久しぶりに小学校を訪れた。と言っても卒業から3ヶ月しか経っていないから、特に変わったところは無さそう。見慣れた廊下を歩き、講堂へと向かった。小春は、私のためにわざわざ1番前の席を開けてもらうように先生にお願いしてくれていたそうで、しっかり者だなと思った。その1番前の席に座ると、すぐに劇が始まった。
劇の終盤、ついに小春の出番がやってきた。小春は勢いよく登場し、大きな声でセリフを言い、年上の男の子相手にも逆らわず立ち向かい、無事に街を救うことが出来た。最後、一瞬小春が私の方を見た。どうだ!と言わんばかりの顔だった。
大きな拍手で幕を閉じ、帰ろうとした時だった。まだ役者インタビューがあるそうで、せっかくだから聞いて帰ることにした。
「力強い声を出そうと意識して頑張りました!」
とやり切った小春のインタビュー。何度も思うが立派だ。その時だった。小春は私に手を振ってきた。するとインタビューの司会者は
「今手を振ったのは、お姉さんですか?」
と言った。
「はい、そうです!」
と答えた小春。なんだか嫌な予感がしてきた。
「そうですか、では岡田さんのお姉さんにも感想をお伺いしましょう。」
と、マイクが回ってきた。どうしよう。パニックになって、感想を答えられなかった。
「や、優しそうなお姉さんですね。妹さんの演技、素晴らしかったですね。」
となんとか司会者はその場を乗り切ってくれた。今度こそ帰ろうとした時だった。
「岡田さんじゃないですか。」
どこかで聞いたことのある声。それは6年生で担任だった三井先生だった。
「小学校の卒業作文で中学では積極的に話し、勉強やさまざまなことに取り組みたいって書いてたじゃないですか」
さっきのインタビューで話せなかった私を見て、とても呆れた表情を見せた。
「卒業から3ヶ月とはいえ、とっくに話せるようになったと思っていました。残念です。」
そう言って三井先生は去っていった。
落ち込みながら家に帰ると、小春も後を追って帰ってきた。
「お姉ちゃん、何でインタビュー答えてくれなかったの?悲しかったよ」
小春のことまで悲しませてしまった。小春はあんなに頑張って劇を演じたのに。お姉ちゃん失格だなと思った。
「でも、見てくれて嬉しかったよ」
と小春は言ってくれた。私の大切な妹だ。
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