第7話 田中さんとの縁

夏休み真っただ中の8月12日。私は今日田中さんと会う約束を、終業式の日にしていた。待ち合わせの公園に10時ごろに行った。

「あ、唯花ちゃん、待った?遅れてごめんね」

田中さんは10時ピッタリに来たが、謝ってきた。

「今日も暑いね、私の家今誰もいないからよかったら来ない?」

田中さんの家にはまだ行ったことが無い。というか他人の家に行く機会なんてほとんど無かった。私は嬉しくて大きく頷いた。

田中さんの家に上がらせてもらった。リビングの椅子に座るとお茶とケーキを出してくれた。そういえば学校では2人になることがほとんどなく、じっくり話したことが無かった。こうやって2人で落ちつくのは初めてだった。

いい機会だから、私は場面緘黙症ということを伝えてなかった田中さんに伝えようと思った。

「場面緘黙症って知ってる?」

と書いたノートを渡した。

「聞いたことは無いけど、話すのが難しい病気か何か?」

だいたい合っていた。病気なのかどうかは分からないけど。

「私が話さないの、不思議じゃないの?」

ノートに書いて田中さんに渡した。

「だって、人ってそれぞれじゃん。ベラベラ話す人もいれば、話せない人がいてもおかしくは無いと思うな。辛いとは思うけど」

私はまたノートに書いた。

「本当は話したいけど声が出てこない。いつかは克服したいと思ってる」

田中さんは

「話せるようになりたいんだね。じゃあ、協力するよ」

と言ってくれた。


あと、もう1つ気になっていたことも聞いた。

「何で、入学式の時声をかけてくれたの?小学校違ったのに名前も知っていたの?」

すると田中さんは

「あぁ。えっと唯花ちゃんは、小学生の時に読書感想文で賞取ってたでしょ。賞を取った感想文を地域新聞で読んだんだよ。」

すっかり忘れていたけど、小学6年生の夏休みに書いた読書感想文。クラスで発表は出来なかったけど、何か賞をもらったんだった。賞と言っても、私の住んでいる地域5校の小学校の中での優秀作を決めるっていう賞だった。私の下手な作文が賞を取るなんてあの時ビックリしたけど、そもそもあの賞はどんな賞だったんだろう。

「公園の近くに仲野書店ってあるでしょ。あの書店の仲野さんが作った賞で、最近本を読む子どもが減っているから、もっと本を読んでほしいっていう思いで作った賞らしいよ。仲野さんはこの町の役員もやってるから、学校と連携して賞を作っているんだって。仲野さんが賞となる感想文を決めるらしいんだけど、それがすごく厳しいらしいんだ。該当作無しって年もあるぐらい。仲野さんは感想文の賞以外にもいろんなことやってるらしいよ」

私は、そんな賞だったとは知らなかった。表彰状はもらって家に置いてあると思うから、また見てみよう。賞を取った私の読書感想文は地域の小学校に配られる地域新聞の一部に載せられた。あの時は本当に恥ずかしくて忘れたい過去だった。けどそのおかげで田中さんが私のことを知ってくれて声をかけてくれたのならよかったのかな。でも、何で私の読書感想文なんかを読んで私に声をかけてくれたんだろう。田中さんは

「実は、私もあの時唯花ちゃんと同じ本を読んで感想文を書いたんだ。結構自身のある感想文だったんだけど、まさか同じ本の感想文で別の人が賞を取るとは思わなくて。」

と言った。確かにそれなら私がどんな人か少しは気になるかもしれない。

「そろそろ私のお母さんが帰ってくるから、唯花ちゃんも帰る?お母さんいろいろとうるさいから、会うと面倒だと思うよ」

そう言われて、私は帰ることにした。


私は、誰かが私の変な噂を別の小学校に流してそれを田中さんは知ったんじゃないかと思ってた。そうやって私を知ってくれたなら安心した。

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