第3話 安心と不安
気が付いたら、窓から光が射してきて明るくなっていた。あれから寝てしまっていたみたい。家族には心配かけたくないから、調べた痕跡を無くすためパソコンの検索履歴を消去しておこう。今日は、学校には行きたくない。お母さんには
「おなかが痛い」
と言って、学校を休ませてもらった。その日は、1日中ベッドの上で寝ていた。まさか、私が喋れないのには原因があっただなんて。私はただのダメな人間ではなかったんだ。でも、その場面緘黙症っていうのを治すにはどうすればいいのだろう。私には全く分からない。誰かが私は場面緘黙症というのに気づいてくれていたら…今まで苦労しなかったと思うし、もっと楽しい生活を送れていたのではないか。周りの人を責めたくなった。でも今更責めても仕方がないし、これから直していくしかない。というか、この場面緘黙症は治るのだろうか。調べた時は症状を読んだだけで泣いて寝てしまったから、治るのかどうかとかは見れなかった。もしかしたら治らないものなのかもしれない。そう考えると、また不安になってきた。
寝ていたら気づけば暗くなっていた。今日は休めたけど、明日かあらまた学校に行かないといけないと思うと憂鬱だ。場面緘黙症だってことをどうやってみんなに伝えよう。でも仮に伝えたところで誰も場面緘黙症というものを知らないと思うし、やっぱり諦めるしかないのか…
その日の夜、もう一度パソコンで「場面緘黙症」と検索してみた。調べてみたがやはり有名なものではないから情報が少なく、「治ります」とはどこにも書いていない。「場面緘黙症 治し方」とも検索してみたが、なんだか難しい事しか書いていない。場面緘黙症が病気なのかどうかは分からないけど、治るものではないのかもしれない。
次の日、何だか現実を受け止めれない私だったが、さすがに2日続けては休めない。嫌だったが、学校に行くことにした。登校して教室に入ると
「唯花ちゃんおはよう。昨日は大丈夫だった、心配したよ。」
と田中さんが声をかけてくれた。心配してくれていたのは嬉しかったが、私は場面緘黙症をどうすればいいのかで頭がいっぱい。すると1時間目の国語の授業の終わり、国語の先生が私を呼んで
「岡田さん、昨日お休みされていたので、ノート。誰かに言って写してもらってください。」
と言われた。どうしよう。昨日休んでしまったから昨日の授業のノートを誰かに写させてもらわないといけない。私は田中さんに頼もうとした。「ノートを写させて」この一言を言えば田中さんは優しいから絶対に写させてくれる。でも、それが言えない。恥ずかしいとかっていうより、仮に私が喋ったら「唯花ちゃん、いきなり喋った!」とはしゃがれそうで怖い。私はもう「喋らない人」というキャラが浸透しているから、喋ってしまうと「何で今まで話さなかったの?」とか「何だ喋れるんじゃん」とか言われそうという恐怖だった。
そんな時だった。
「ほら、昨日休んでただろ。きたねー字だけど俺のでよかったら写せよ」
と、ノートを差し伸べてくれた。小野寺くんだった。
やっぱり私は「ありがとう」とは言えなかった。でも、すごく嬉しかった。しかも、小野寺くんは今日も授業で先生に怒られていた。この前も声をかけてくれたし、謎のギャップが不思議だった。ノートを写し、小野寺くんにノートを返そうとした。でも、お礼の一言ぐらい言わないと何て思われるか怖い。そこで私は思いついた。ノートを1枚小さく切って、そこに文字を書けばいいんだ。
「ノート写させてくれてありがとう」
そう書いたノートの切れ端とともに、小野寺くんのノートを返した。小野寺くんは、特に何も言わずノートをカバンにしまった。ノートの切れ端はどうするかと思ったが、そこまで見ていると何か言われそうで怖かったから、自分の席に戻った。
そういえば、田中さんにはまだ私から何も話してない。喋ることは出来ないけど、文字を書いてさっきの小野寺くんみたいに渡すことは出来る。それだ。私はとりあえず田中さんにいつもの感謝の気持ちを伝えようとした。「いつもありがとう」そう書いたノートの切れ端を田中さんに渡した。すると
「唯花ちゃん、何かあったら今みたいに紙で伝えて。力になるから」
と言ってくれた。素直に嬉しかった。
それからというもの、私と田中さんは文字でのやり取りをすることにした。最初はノートの切れ端を使っていたけど、ある日
「じゃじゃーん。これは、私と唯花ちゃん専用のノート。今日からはこれを使って私と思いを伝え合お」
わざわざノートを買ってきてくれたんだ。私は1ページ目に「ありがとう」と書いた。なぜか田中さんも「いいよ」とノートに書いた。
そんなやり取りをして1週間ぐらいたったある日だった。
「岡田さんは今日の昼休みに先生と一緒に職員室に来てください」
と担任の中山先生に言われた。どうしよう。私はまた何か悪いことをしただろうか。まあ喋れない私はみんなにはすごく迷惑をかけていると思うし、当然か。そう思い、昼休みを迎えた。
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