第43話 少女連行
「──私を、助けてください」
少女は目の縁に涙を溜めながらそう言った。
その様子はなにか差し迫っている様子で、助けを渇望している事がひしひしと伝わってくる。
「……とりあえず、寮に行きましょう」
僕はなんと答えればいいか分からず、そう言ってしまった。
いや、どちらかというと、なんと答えるべきかを寮にいるロントくんとハーミルくんに聞くためにそう言ったのだ。
僕が口を開けば、余計なことを言ってしまう。そんな予感がした。
ジャリジャリという、歩く度に地面の小石同士が擦れている音が耳に響く。
自然に出る音以外の全てが遮音されている。そんな錯覚をしてしまうほどに、僕と少女の間には閑とした空気が流れていた。
「名前……名前はなんて言うんですか?」
僕はこの閑とした空気を少しでも改善しようと、少女にそう言った。
名前を聞くだけなら失礼には当たらないだろう。
「アディメ・ヘラーラ……」
「良い名前ですね」
「ありがとうございます……」
「……」
「……」
駄目だ会話が長続きしない。
ここにきてコミュ障を発揮してしまった。
ここから寮までの道のりは地味に長いし、魔法学校の敷地内だと言うのに、今日に限って誰ともすれ違うどころか、僕たち以外の人すら見えない。
アディメさんは、僕が渡したリンゴを食べずにじっと見てるだけだ。
無理に会話をする必要はないのだろうが、直前に泣いていた人に励ましの言葉1つも掛けないのは失礼だろう。
しかし、その励ましの言葉さえも僕には思いつかない。
つくづく、僕は周りに救われている側だと実感させられる。できれば、救える側の存在になりたいものだ。
「今日は良い天気ですね」
デートで話す内容が無くなった人間のようなことを僕は言った。
「そう、ですね」
アディメさんはそれだけ言って黙ってしまう。
本当に会話が長続きしない。ここまでくると虚しさを通り越して清々しさを覚えてくる。
「年齢は何歳なんですか?」
いよいよ出会い系アプリで知り合った人とのデートみたいな話になってきたな。いや、今はプロフィール欄で年齢はわかるから、それ以下かもしれない。
「13……です」
僕と同い年である。
これをきっかけになにか会話を作り出そうとするが、僕の頭のみでは『僕と同い年ですね」ぐらいの内容しか出てこない。
「あの……」
アディメさんが何かを話し出そうとしたので、「なんですか!?」とさも興味有りげに僕は反応した。
「無理に、話そうとしなくても大丈夫ですよ……?」
気づかれてたか……。
僕は「ごめんなさい」と言って、顔から火が吹き出そうな気持ちを表に出さぬように、手の平でパタパタと風を扇いだ。
なんの種類かわからない木の郡を通り抜けると、目の前に女子寮と男子寮とに別れている道が現れた。
先に風呂に入れたほうがいいよな、この臭いは。
僕はそう思って、女子寮の方に向かう。普通は男子禁制なのだが、今回ばかりは道案内という大切な役割がある。決して、決して! やましい気持ちがあるわけではない。
「あの、本当にいいんですか?」
「何が?」
「本当にこんな大きい学校なんかに私なんかが入って良いんでしょうか?」
あー、そこに関しては僕にもよくわからない。
魔法学校の要項には、別にそう言った禁則事項こそ書いていないが、書いていないだけで実際はアウトかもしれない。
ただ、さすがに困っている人をそのまま突き放したりするのは駄目だろう。
「いいんじゃないですか」
僕はアディメさんにそう言った。
僕はルラーシアちゃん達の住んでいる女子寮の扉を、2回ノックした。あれ? こういう時って何回ノックするんだっけ?
僕がそう思っていると、部屋の中から「はーい」とフィモラーちゃんの声が聞こえた。そして、その後すぐにフィモラーちゃんが扉を開けて出てきた。
「あれ? リーバルトくん? どうして?」
彼女は僕の姿を見て一瞬困惑するが、僕の後ろに立っている人物の方に視線をやると、そこからやってくる異臭に顔をしかめた。
「どうしたの? フィモラー? 誰がきt」
ルラーシアちゃんが奥の部屋から顔を覗かせてきて、僕の顔を見た途端にギロリと僕を睨みつけた。
これは嫌われてると見て間違いない。日頃の行いって重要なんだな。
「用件は何?」
フィモラーちゃんは異臭に我慢をして、凛とした様子で僕にそう聞いてきた。我慢はよくないですよと言いたい。
「この子をお風呂にいれてくれないかな? 少し訳アリみたいで……」
「う、うん、分かった」
フィモラーちゃんはそう言うと、僕の後ろにいるアディメさんに手招きして寮の中へ誘い込んだ。
ルラーシアちゃんも話を聞いてくれていたのか、風呂への道を開けていた。
フィモラーちゃんとアディメさんが女子寮の風呂にはいったあと、ルラーシアちゃんが僕を捕まえて共用ルームの椅子に座らせる。
「あの子は誰なの?」
「勇者の護衛? 仲間? みたいな人です」
「どうしてここに?」
「路地裏でうずくまって泣いていたので……」
半分尋問まがいのようなものをルラーシアちゃんがしてくる。
今回ばかりは僕もさすがに何も悪いことはしていないのだが、ルラーシアちゃんの目つきが完全に容疑者を見つめるそれだ。
「泣いてた?」
「はい……理由はわかりません」
「路地裏って、どこの路地裏」
「市場の……八百屋と肉屋の間にあるところです……」
僕は机の上に置かれた2つのリンゴを見つめる。
何も悪いことはしていないのに責められているような気がしてならない……。
「魔石を買いに行ったら出会ったの?」
ルラーシアちゃんが水の魔石が入った紙袋を見ながらそう言った。
「はい……」
「そう……」
すごい気まずい。
すると、突然ルラーシアちゃんが僕の手首根っこを掴んで、脈を測り始めた。暫くの間沈黙が流れる。
「嘘はついていないようね」
漫画とかでも最近はやらなくなったことを実践する人初めて見た……。
「とりあえずあの子達がお風呂から上がってきたら、クラスのみんなで話しましょう」
そう言って、ルラーシアちゃんはロントくんとハーミルくんを呼びに行くために、ちょっとした支度をして彼女は外へと出かけていった。
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