第36話 告白
適当にそこらへんのパン屋でパンを買って食べた後、僕たちはロントくん達の入った本屋へ舞い戻ってきた。
まだロントくん達は本屋にいるようで、ロントくんはルラーシアちゃんと笑い合いながら本を物色している。
僕たちはこっそりと本屋の中へ入った。
正体がバレるといけないのでそこまで近づくことはできなかったが、ある程度会話が聞こえる距離までは近づくことができ、時折「この本はここが面白くて……」や「この魔術書はあまりおすすめしないな」とルラーシアちゃんが本の事を質問しては、ロントくんはそれに返答している。
傍から見れば立派なカップル、あるいは夫婦だ。
思ったよりもいちゃいちゃしてんな。
「楽しそうだね」
ハーミルくんが二人に聞こえないような声で微笑みながら僕にそう言ってきたので、僕はうん、と返した。
二人の幸せそうな笑顔を見て、僕はすこし頬が緩んだのを感じた。
その後、ロントくん達はそれぞれ興味のある本を買って本屋を出た。
僕たちはこっそりとそれについていく。
本屋を出る際に店主に不審者を見るような目で見られたが、どこかおかしいところでもあったのだろうか?
「あの二人さ〜」
ベンチが近くにあったので僕たちはそこに座り、ハーミルくんは机に頬杖をつきながらそう呟いた。
ロントくん達は今度は魔石屋に寄ったので、僕たちは魔石屋の向かいにある外のベンチで待機している。
僕は先程の本屋で買った魔石についての本を読んでいる。
「なんというか、もどかしいんだよね〜。絶対に告白をすれば付き合えるのに、告白をどっちからもしないって」
ハーミルくんの言いたいことも分かるような気がする。
あの二人は昨年の秋ごろからああなのだ、今はもう夏休み直前だと言うのに。
「でも僕は今日が最後だと思うな」
僕はそう言った。
「なんで?」
ハーミルくんはキョトンとした声で僕にそう聞いた。
僕は読んでいる魔石についての本のある1ページを開いた。
「魔石言葉?」
ハーミルくんが開いたページを見てそう言う。
魔石言葉とは魔石のもつ性質を象徴的に表した言葉で、花言葉の魔石版のようなものだ。
「そう。例えば火属性なら、『燃えるような恋』『努力』で風属性なら『爽やかな君が好き』『冷静』みたいな感じ」
ハーミルくんが「ふーん」と言った。
「それがどうしたの?」
ハーミルくんがそう言ったので、僕はロントくん達のいる魔石屋を指さした。
僕が指を差した方向には、ロントくんがしきりに水属性の魔石を手にとっては、査定をしている。
「あれがどうしたの?」
「水属性の魔石に『貴方を愛します』っていう魔石言葉があるんだ」
すると、ハーミルくんは「あー、なるほど」と言って手をぽんと叩いた。
まぁほとんどこの本に書いてあることを暗唱しただけなんだけれども……。
おそらく、ロントくんは水属性の魔石を結婚指輪のように使ってルラーシアちゃんに告白をする気だろう。
基本、魔石は濁っている方が優秀なのだが、ロントくんは色が薄くて透明感のある綺麗な魔石ばかりを査定しているので、単に魔術師からのプレゼントをする、というわけでは無さそうだ。
「あの様子だと、ロントの方から告白しそうだね」
ハーミルくんはウキウキとした様子でそう言う。告白するところを今すぐにでも見たいというような表情だ。
「あっ、ロントが水属性の魔石を買ったよ!」
ハーミルくんがそう言ったので、僕は急いで魔石屋の方を見る。
すると、ロントくんが水属性の魔石をフリル金貨1枚で買っているところが見えた。
ルラーシアちゃんは会計とは真反対の位置にある光属性の魔石のコーナーにいるため、ロントくんが水属性の魔石を買っているところは見ていない。
「ありゃ確実だね」
ハーミルくんがニヤニヤしながらそう言った。
ってやべ、ルラーシアちゃんがこっち見てる……。
なんかロントくん呼んでこっちを指さしてるし……。
バレた? だとしたらまずいな。
「逃げる?」
ハーミルくんが僕にそう聞いてきたので、僕は「うーん……」と迷った。
二人の様子を見る限りでは、「あの人達だれだろう?」みたいな反応だし……ああでも、それだといつか気づかれる可能性があるな。
「ちょっと目立たない場所へ移動しようか」
僕はそう言って席から立ち上がり、近くにあった路地裏に入った。
ロントくん達は魔石屋をでて、どこかへ歩きはじめる。
あっちの方には確か広場が有ったはずだ。
「まさか……」
僕はハーミルくんと目を見合わせる。
ハーミルくんも何かを察したのか、コクリと頷く。
僕たちは広場へと向かったロントくん達に追いつくべく走った。
ロントくん達が僕たちの視界にはいった頃には、全てが終わっていた。
ダイヤモンドのような清涼感と透明感を持つ水の魔石を、ルラーシアちゃんに差し上げているロントくん。
それを見て顔を真っ赤に染めているルラーシアちゃん。
心なしかルラーシアちゃんの頭頂部から煙が出ているように見える。
僕たちは遠くにいたので、ルラーシアちゃんの返事が聞こえなかったが、直後にロントくんの「やったぁぁ!」という大きな叫び声が聞こえてきたので、成功と見ていいだろう。
僕はパチパチと拍手をする。結構な澄まし顔で。
するとハーミルくんも僕のマネをして手をたたき始めた。
ハーミルくんから、近くの人へ拍手が伝染していき、校長先生によく似た赤い髪の人や、狼獣人の人などが次々と拍手をし、最終的には広場にいる全員の人間が、新しいカップルに拍手喝采を送った。
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