第35話 デート←尾行←尾行
「じゃ! 出かけてくるね!」
学校が休みの日、ロントくんはそう言って外に出かけた。
まるでこれから良いことがあるといったような感じで、彼はウキウキとしていた。
いっちょ前におしゃれをして、いっちょ前に市場で買ったペンダントを首に引っ掛けている。
ロントくんのフォッション姿というものは見たことがないため、貴重なシーンだ。
「は、はーい、いってらっしゃい」
僕は活字だらけの何がなんだかよくわからない本を読みながらそう言う。もちろん内容はこれっぽっちも頭の中には入っていない。
ロントくんが扉を閉める音が玄関の方から聞こえてきた。
すると、今の今までクローゼットに隠れていたハーミルくんがぷはぁ、と大きな息を吐きながらクローゼットの中からはいでてきた。
隠れる必要はあったのか?
「よし、準備はできた?」
ハーミルくんがそう言った瞬間、僕は頷きソファの下に隠してある小袋を取り出した。
「よし! 変装開始!」
ハーミルくんが人差し指を立てながらそう言ったので、僕は小袋のなかに入っていたものを机の上に広げる。
市場で買った安めの奇抜な服、自分で工夫して作ったサングラス、薄茶色の麦わら帽子、身長少しでも高く見えるようなシークレットシューズ(自作)を僕は机の上に散らかす。
「大丈夫? これ逆に目立たない?」
ハーミルくんがこれらを見てそう言うので、僕は「大丈夫だ、問題ない」と某天界の書記官のように言った。
「そうなら良いんだけど……」
ハーミルくんは半分疑いの目を僕に向けながらも、許容してくれた。
まぁサングラスなんてこの世界では珍しいものをつけてたら目立つのは間違いなしなんだが……。
「よし! 準備完了! 急いで市場の方に向かうよ!」
ハーミルくんはそう言って、寮の玄関の扉を開けて外に出た。 そして、僕はそれについて行く。
今日はロントくんとルラーシアちゃんのデートの日だ。尾k……結果を見届けなければな!!
しばらく走っていると、前方にロントくんとルラーシアちゃんの姿が見えた。
2人は寄り添いそうで寄り添わないもどかしい距離感で歩いている。
時折、片方の手がもう一人の方の手に触れると、両者とも顔を赤らめながら急いで手を退かす。
「なんなのあれ……もどかしいな……」
ハーミルくんがまるで中学生の恋のようなもどかしい反応に、ウズウズとしている。
「ま、まぁ、その内くっつくだろうからしばらく観察してよう?」
僕はそう言って、今にも飛び出しそうなハーミルくんを制止した。
「……それもそうか」
ハーミルくんは不服そうな顔で僕を見つめたが、最終的には納得してくれた。
「……?」
「どうしたの? リーバルト」
気のせいだろうか?
後ろで何か物音がした気がするのだが……。
「なんでもないよ」
「そうか、ロント達が行っちゃう、急ごう」
ハーミルくんが遠くなっていくロントくんの影を追っていったので、僕もそれについていく。
……やっぱり後ろがなんか気になるんだよな。
僕たちはロントくん達をつけていると、ロントくん達はそのまま何かの店の中に入っていった。
その建物は宿屋のような見た目で、看板で文字が書かれている。遠くて文字こそ見えないが、木でできている看板は濃いピンク色で着色されている。
まさか……15歳と14歳でもうそんなところへ行くの……?
「君が何を考えてるか僕には分からないけれど、あそこ只の本屋だよ」
あっそうなのね。残念……いや良かった。
「どうする? 張り込みする? それともどこかで時間を潰しとく?」
ハーミルくんがそう言った。
うーん、どうしようか。
ロントくんとルラーシアちゃんは本屋に行くとしばらくは出てこないもんな。
一時間ぐらい適当にそこらへんをほっぽり歩いてても、別に見失うことなんて無いだろう。
「少し早いけど昼食にする?」
僕はハーミルくんにそう言った。
すると、ハーミルくんはうん! と大きな返事をしてポケットからスッ……とお金の入った巾着袋をとりだした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜【視点変更:イルモラシア】
「ふむ、今日も危険は見当たらんな」
しかし、リーバルト・ギリアの監視を始めてからというもの、子供の体力には驚かされる。
わしが疲れたと思っていても、あの子らは喜々として走っているではないか。
考えたくはないが、わしも年をとったということだろう。
今のうちに魔法学校長の後任を決めておくべきかもしれんな。
それにしても、今日のリーバルト・ギリアは変な恰好をしているな。
黒い……大きな目を模したもの? をつけていて、それと何故か身長を高く見積もらせるような靴も履いている。
服も服で年寄りのわしでも考えられんダサさだ。
となりにいるヨルバス家の息子は普通の恰好をしているな。少しいつもとは違う服装をしているが、隣りにいる不審者よりかは普通だ。
そもそも、あの二人は一体本屋の方をジロジロとみて何をしようとしているのか。
さっきまでは茶髪の男子生徒と白銀の長髪の女子生徒を必死につけまわっていたが……尾行?
尾行というのは魔法学校性としてはあまりよろしくない行為ではあるな、わしも人の事は言えんが。
「校長先生、こんにちわ。まだまだお若いね」
わしが隠れてリーバルト・ギリアを監視していると、野菜売のレミルカさんに挨拶をされた。わしが60代の頃はまだ小さな少女だったというのに、今ではもうすっかりおばあさんになっているではないか。
やはり、時間の経過というものは早いな。
「こんにちわ。それほどでもないさ、わしゃ120からは数えなくなった老いぼれだよ」
しかし、魔法学校の校長をやっているとやはり目立つな……わしの赤い色の髪も目立つ原因ではあるが、魔法学校の校長になってからは一気に話しかけられる事が多くなったような気がする。
「あらやだ、嫌味かしら? うふふ」
「そういうのじゃないさ。ただ私よりも長生きしてほしいだけだよ」
「それこそ嫌味ね。冗談は下手なんだから、先生」
あははとレミルカさんは上品に笑った。
冗談ではないのだけれどな……。
「じゃあ、さようなら」
「さようなら。また今度」
レミルカさんとある程度の話を終えて、私はリーバルト・ギリアのいた方向を見る。
「て……あれ?」
あの二人はどこ行った?
わしが一瞬見逃していた隙にあの二人、どこかへ行きおった。
なぜ魔法には索敵魔法がないのだろうか。なんだったらわしが作ってしまおうか?
わしはそう思いながら、要監視対象の少年を探し始めた。
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