第31話 目覚めと尊厳破壊

「ん……ん?」


 僕は見覚えのある天井を第一として目が覚めた。


 ここは確か、魔法学校の医務室だったはずだ。

 しかし、何故?


 僕が医務室にいる理由が思い出せない。

 また魔力の使い過ぎで気絶したか? いや、それにしてはあまりにも身体が元気過ぎる。

 魔力の枯渇であれば、しばらくの間は倦怠感が体中をつきまわってくるのに、今は身体の中から力が湧き上がってくるようだ。


「あ、ああー」


 喉が枯れていることに気がついたので、僕は机の上においてあったコップに注がれている水を飲んだ。

 喉は潤いこそしたが、どうしても身体が火照って仕方がない。

 風邪でも引いたか?


「〜♪」


 医務室の外から誰かの鼻歌が聞こえてきた。鼻歌からは喜々とした様子が感じられる。

 すると、その鼻歌の主である医務室の先生が、医務室に入ってきた。


「あのー、先生?」


 僕は未だに鼻歌を続けている医務室の先生に話しかけると、先生は僕の方を見るいなや、急いでどこかへと走り去っていってしまった。

 医務室の先生が走っていく最中に「リハード先生ー!」と叫んでいたのが僕の耳に入ってきた。

 そこまで大げさにしなくても……。



 しかし、なんというか、直近の記憶がない。

 ロントくんに一声かけて市場に向かったのまでは覚えているが、僕が市場で何をしていたかなどがどうしても思い出せないのだ。

 頭がふわふわして考える力が衰えている。


「──大丈夫か!? リーバルト君!」


 僕がそんなことを考えていると、リハード先生がただならぬ様子で医務室に入ってきた。

 いつも落ち着きのない先生ではあるが、今の先生は違う意味で落ち着きがない。

 リハード先生は急いでこちらに向かってきたのか、息が荒い。


「だ、大丈夫です……」


「本当か!? 体に異常は? 吐き気は? 熱は?」


 リハード先生が矢継ぎ早にそう言うので、僕は返答に困ってしまう。


「落ち着いてください。そういっぺんに聞いても答えにくいだけですよ」


 医務室の先生が、リハード先生にそう言って落ち着きを促す。

 何か悪いことでもしてしまったんだろうか?


「頭がふわふわするのと……体の中心から力がみなぎってくること以外は大丈夫です。あぁ、あと体の火照りも。

 それと……何か僕悪い事しちゃいました?」


 僕がそう言うと先生たちは、はぁー、と安心か呆れのどちらか分からないため息をついた。


「いいや、悪いことはしてはいないさ。ただ、ちょっと……」


 リハード先生が何かを言おうとした瞬間、医務室の先生がリハード先生の足を踏みつけたのが見えた。

 何かを僕に隠してる?


「い、いや? やっぱりなんでもない」


 リハード先生が慌ててそう言い直したので、僕のリハード先生への疑心が更に強まった。

 

「それより君、いま体の火照りって言ってなかったかい?」


 医務室の先生が僕にそう言ったので、僕は「はい」と返事をした。


「そうか……うむ、分かった。しばらく安静にしておくと良い。僕たちはこれから職員会議があるからゆっくりしててね。

 ああそうそう、後でちょっと話したいことがあるから」


 医務室の先生はそれだけ言って、リハード先生を連れて医務室の外へと出ていった。

 露骨に何かを隠されてるな……。


「リーバルト!」


 先生たちが廊下に出てからしばらくした後、医務室の外からトタトタと何かが走ってくる音が聞こえ、足音が止んだと思ったら、今度はそう叫ぶハーミルくんの声が聞こえた。

 来てくれたのか。


 ハーミルくんだけではない、ロントくんや、ルラーシアちゃん、フィモラーちゃんまでもが医務室のドアから顔を覗かせている。

 えらく大所帯だな。

 そんなやばい状態だったのか? 僕。


「どうしたのこんな大勢で」


 僕がそう言うと、皆が一口に叫んだ。


「「「どうしたのじゃないよ!」」」


 思いっきり全員がそう叫んだので、僕は思わず耳を塞いでしまった。

 え? なんで? そんなにやばかったの?


「僕そんなにヤバかったの?」


 僕がそう聞くと、ハーミルくんが呆れたように説明してくれた。


「一週間ぐらい前からずっと医務室のベッドで寝たきりだったんだよ? どんなに治癒魔法を掛けても起きなかったし……かといって近くの病院に行っても結果は同じだったし……。とにかくやばかったんだよ!」


 あー……思ったよりも迷惑かけてたんだな。

 てか一週間も寝てたの僕!?


「え……じゃあトイレとか、そういうのは……」


 僕は皆の方を見て真っ先にそう言う。

 できれば聞きたくないが、聞かなければずっともやもやした気持ちが心に残りそうだと思い、僕は聞いた。


「えーと、それは……オムツとか……色々と、ね?」


 ハーミルくんは僕のことを哀れんだ目で見つめる。

 そして、僕は今あることに気がついた。気がついてしまったのだ。


 ケツ全体に……ぐちょっとした違和感があることに。

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