第28話 実技テスト0点組

 ハーミルくんは前の二人とは違って、目を瞑らずに手を前に突き出した。

 集中力はあまり必要としないのだろうか?


 僕がそう思っていると、ハーミルくんの周りに風が吹き始めた。

 ハーミルくんの周りに吹いている風は徐々に強くなっていく。最終的には暴風と言ってもいいほどに風は強くなった。


「お、おお! まさか!」


 先生は興奮しながらそう言う。

  

 次の瞬間、ハーミルくんはジャンプをした。

 空に舞った彼の体は、重力によって地面に落下することはなく、そのまま宙に浮いている。

 彼は、空を飛んでいた。


「おお! いいねいいねいいねいいねぇっ!」


 先生は壊れたロボットのようにいいねを繰り返すと、すごい勢いで羽ペンにハーミルくんのテストの結果を書いている。その勢いは羽根ペンのペン先が折れてしまわないか心配になるほどだ。

 先生の興奮具合に、ハーミルくんのテストの結果は満点だろう。

 そんな先生の様子を見て、ハーミルくんはご満悦のようだ。



 僕の番になった。

 先生は未だに興奮が抜けきれていないようで、息が荒い。やはりフーリアさんの言う通り、狂気教師だ。


「強かなる精霊よ、我に力を貸し、辺りに風を巻き起こせ、『"ビ"エヤビャーク』」

 

 僕はそう詠唱するが、魔法は発動しない。

 ……なんで?


「もう一回ね」


 リハード先生に恩情を掛けられたので、僕はもう一度魔法の詠唱をする。


「強かなる精霊よ、我に力を貸し、辺りに風を巻き起こせ、『ヴィエ"ア"ビャーク』」


 ……。

 僕はリハード先生の方を見る。


 すると彼は意外そうな顔をしながら、僕の詠唱魔法の結果を書いていた。

 

 その後も僕はノズヴォドニィの詠唱も失敗、僕の詠唱魔法の実技テストの成績は0点確実となった。


 ま、まぁ? 僕には基礎魔法があるしぃ?


 先生は「……ん」と顎で僕の方を指した。

 おそらく基礎魔法を使えと言っているのだろう。

 Oh……指示が雑……。


 僕は腕を前に突き出す。

 火属性の基礎魔法は危ないから……適当に水属性にするか。

 大きさは僕と同じくらいの大きさにして……範囲は……そもそも、この基礎魔法で何をしようか?

 これを空中で炸裂させて雨を降らせる? それとも質量を上げてそこらへんにある木をへし折る?

 

 やべ、詠唱魔法の勉強に力を入れすぎて、基礎魔法は何をするか決めてなかった……。


「どうしたんだい?」


 僕が大きな水球を放たずに維持し続けていることを疑問に思ったのだろう。リハード先生がそんな事を言った。


 どうしよう……。

 水でできるもの……インパクトのあるものが良いよな……?

 インパクトがあるもの……インパクトがあるもの……そうだ!


 僕は腕を天に向ける。それにつられて水球も僕の頭上へと昇った。

 僕は水球に向かって魔力を送り込み、水球のサイズを大きくする。

 水球が大型トラックくらいの大きさになると、だんだん僕の意識が朦朧としてきた。

 魔力が尽きかけているのだろう。


 僕はコレ以上はまずいと思い、水球を前方の空へと投げる。

 巨大な水球は高さ20mほどの上空に到達するとピタッとそこで止まった。

 

 上空にとどまっている水球から一本の棒のような物が出てきた。

 水でできているものの、先端は針のように尖っている。


 僕は天に向けていた腕を勢いよく振り下ろす。

 一瞬だけ立ちくらみのように視界がぐらついたが、問題はない。


 僕が腕を振り下ろすと、水球から突き出ていた水の棒が地上に向かって落下し始めた。

 それを皮切りに水球から次々と水の棒が出てきて、地面に落ちていく。


 地面に到達した水の棒は、地面奥深くに突き刺さる。その光景は槍の雨ようだ。


 今日の天気は槍が降るでしょう。鉄の傘をお忘れなく。


 これ一回言ってみたかったんだよね。


「おぉ! 『アクアスピア』を基礎魔法で再現したのか! 少し違うところはあるが、それでもすごいねぇ!」


 あっ、詠唱魔法に似たような魔法があるのね。

 水の刃があるなら水の槍もあるか、うん。


「次が最後だ、ルラーシアちゃんよろしく」


 先生はルラーシアちゃんの方を向いてそう言った。

 ルラーシアちゃんは先生の言葉を聞いて、詠唱魔法を詠唱しはじめる。

 

「強かなる精霊よ、我に力を貸し、辺りに風を巻き起こせ、『ヴィエヤビャーク』」


 彼女が詠唱をしても、魔法は発動しない……なんてことはなく、辺りには強い風が吹き始め、彼女の詠唱魔法のテストは成功した。


 僕だけが詠唱魔法の結果が0点だ……。


「基礎魔法ね」


 リハード先生がそう言った瞬間、ルラーシアちゃんの顔がみるからに曇った、ついに来たか……と言いたげな表情だ。

 まるで基礎魔法を発動することを拒んでいるような、そんな様子が彼女から感じられた。

 どうしたのだろうか?


「どうしたんだい?」


 リハード先生はルラーシアちゃんの異変を感じ取り、そう聞く。

 するとルラーシアちゃんは申し訳無さそうな顔して「ごめんなさい」と言葉を漏らした。


「基礎魔法……0点でもいいから私のは止めてください……」


 予想外の言葉だった。

 基礎魔法ができなくて0点になるのは分かるが、本人が0点になってもいいと言うのは

 先生も想定外だったようで、あたふたしている。


「ちょ、え? なんで? じゃなくて……えっと……違くて、あ……いや……」


 思ったよりもあたふたしてんな。


「だって基礎魔法が使えないわけじゃないでしょ? 本当に0点になってもいいの? え?」


 先生が困惑しながらもそう言うと、ルラーシアちゃんは静かに頷いた。 

 一体なぜだろうか……?



 その出来事を最後に、今日のテストは終わった。

 数日後、リハード先生から渡された僕のテストの結果には、詠唱魔法の欄に『0』と無情にも書かれていた。


 僕たちのクラスには、詠唱魔法と基礎魔法のどちらにも0点を取った人間がそれぞれ1人ずついる、そんな噂が現在進行系で他クラスに広まっている。

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