第27話 実技テスト
魔法学校の第二グラウンド。
ここには僕たち以外に人は見当たらない。実技テストをするのには申し分ない広さで、他の人間に危害が及ぶこともないだろう。
まさにテストにうってつけの場所だ。
ロントくんは先生に催促をされ、詠唱魔法の詠唱を始めた。
「強かなる精霊よ、我に力を貸し、辺りに風を巻き起こせ、『ヴィエヤビャーク』」
ロントくんが力強く詠唱すると、辺りにはそよ風が吹きはじめる。
そよ風は徐々に強くなっていき、辺りに転がっている葉っぱが舞い、僕たちの着ている制服がバタバタと音を立てて暴れ始めた。
皆の髪の毛がバサバサとウェーブを描いている。
初級程度の魔法なので、そこまで威力は強くないが、それでもある程度の重さの物を動かせる程度の強さはあるだろう。
僕がそう思っていると、ロントくんは違う詠唱魔法の詠唱を始めた。
「水の精霊よ、我の目の前に敵あり、敵を切り裂かん力を我に預け給え『ノズヴォドニィ』」
ロント君は目を瞑りながらそう詠唱すると、ロントくんの目の前に水が現れた。
水と言っても雫ではない。まるで持ち手の無い反りの付いた刀のような形状である。
そのあと2秒と経たずに、その水の刃は上空へと射出されていった。そのスピードは車程度の速さはあるだろう。
人に当たれば悲惨な結果になるであろう。
魔法によってできた水は、数日も経てば魔力が空気中に逃げていき、跡形もなくなる。
あの水の刃は、その全てが魔力に変わり世界に還元されるまで、遙か上空を飛び続けるのだろう。
そう考えると、魔法というものはすごいと思う。
「よし、次は基礎魔法だ」
先生は羊皮紙に羽ペンで何かを書いた後、そう言った。
いつもみたく賛美の言葉を述べないので、少し違和感がある。大事なテストなのだから仕方がないのだろうが。
ロントくんは目を瞑り、集中し始めた。
ロントくんの前方の地面に水球が現れる。そしてその水球は土を徐々に濡らしていった。
ロントくんはあらかた地面を濡らした後、土属性の基礎魔法を使って、土をこねくりはじめる。
水分が足りなくなっては、水球を使って地面を濡らし、また魔法で土をこねくる。それをひたすらロントくんは繰り返した。
ロントくんの前方の地面が殆ど泥になると、それらは徐々に隆起しはじめた。
最初は膝ぐらいの高さだったものが、腰、肩、そしてついにはロントくんの身長を越えてしまった。
「……っ! はぁ、はぁ」
ロントくんは地面に手と膝をついて、ひどく疲れた様子で荒い呼吸をする。
額には汗が浮かんでいる。
あれほどのものなら、かなりの集中力が必要だろう。僕には到底真似できない。
「よし、いいね。次はフィモラーちゃん」
先生はそう言って、フィモラーちゃんの立っている方へ振り返った。
フィモラーちゃんはこくんと小さく頷くと、詠唱を始めた。
詠唱魔法の結果はロントくんと同じで、やはり優秀だった。
しかし、結果が同じということは変わり映えがないと言うことで、それ以外に言うことはない。
「よし、基礎魔法」
リハード先生はそれだけ言って、羊皮紙に結果を記録してフィモラーちゃんの方をみる。
フィモラーちゃんはロントくんと同じ様に、集中するために目を瞑る。
すると、フィモラーちゃんの周囲に小さな火の玉が現れた。
その火の玉の数はおよそ10個はあるだろう。大きさこそテニスボールぐらいの大きさだが、量に関してはすごいと言わざるを得ない。
「おお! いいね、次はハーミルくん」
リハード先生は何かを言いたそうに、もじもじとしていたが、その欲求を抑えてハーミルくんの方を見る。
流れるようにテストが終わっていく。
「はい!」
ハーミルくんは自信満々にそう返事をした。
今回のテストにかなり期待しているのだろう。彼は、テストで良い点を取ればお父さんに褒めてもらえる! と言っていたからな。それだけ勉強をしてきたのだろう。
そして、彼の詠唱魔法のテストが終わる。彼の詠唱魔法もやはりロントくんやフィモラーちゃんのように優秀だった。
詠唱魔法は術者が威力と範囲の指定をすれば、その分の魔力が消費されるだけなので、あまり詠唱魔法を集中的に勉強する必要はない。
多分この世界の人にとって、詠唱魔法の勉強は英語の単語を覚えるのと同じぐらいの感覚なのだ。
まあ、僕の場合は、魔法の発音が重要になるので集中的に勉強をしなければだが……。
「基礎魔法」
家族に醤油を取ってと言うように、先生はそう言った。
雑だなあ。
「はい!」
そんな先生の様子を気に留めずに、ハーミルくんは元気に返事をする。
ハーミルくんは腕を突き出して、基礎魔法の発動を開始した。
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