第33話 情報機関

「護衛の女は変えたんだな」

「護衛?」

「カステラヤ魔法王国との態勢が決した5年前に戦場から護衛をつけて逃がした。

 旧教の連中の発言力が増してきたから、魔女狩りを叫びだす前に捕虜にした聖女も含めて逃した。

 ベルはまだサルディーラ王室の為に活動したいというから護衛を2人つけて、東方で諜報活動でもしてくれと頼んだ」

「2人とも寿退社しました。

 武器はサルディーラ王室に返還していただきました」

「女は当てにならんな」

「ジオン王子。

 花の生命は短いのです。

 我々とは違います。

 手当たり次第無闇に手折ってもいけませんが、咲き誇る花を愛で実を結ばないのも罪でしょう。

 どうか2人を許してください」

「新人か、そいつら強いゾナ?」

 チムチムが問題の一言を言う。

 いや、話が退屈な本人の半ば挑発である。

 白魔法使いが普及してない。東方諸国では礼儀作法が重んじられ、とりあえず戦わないでどの程度技量を修めているか、人間力を読むというのがまず主流である。

 礼儀作法は親が着せておく鎧のような物で、相手に人間力を読ませない為の重要な儀式である。

 それに引き換えソフィア正教圏など、嫁が強いマージア州など、教会に『夫を刺してから治療魔法を頼むのではなく、刺す前に相談に来てください』と看板が建て付けてある。

 刃傷沙汰に対する刑法の司法哲学も東方より西方の方が軽い。

 冒険者の間では怪我させて動けなくした方が強い、そして偉い。

 2人のボディガードはチムチムの安い挑発に簡単にのった。

 ベルの左手に金属の胸当てだけをした女戦士がイスを乗り越えた。

 両手を突き出した。

 腰に突き刺した3本の60センチ程の棍棒を念動力テレキネシスで引き抜くと一本の棒に合体した。

 ジオンは合体するマジックアイテムだと理解した。

 なぜなら彼が護衛の2人に渡した物の一つだ。

 だが念動力テレキネシスは違う。

 知らない。

 この女特有の物だ。

 この女、小さいが巨人ティターン族。

 精神力サイコキネスとは違い、物を動かしたり、引っ張ったり、投げたりする力。人間をつかんで投げることはできるか、臓器の血管を切ったり、千切ったり、半物質のサイコスピアを作ったり、バリヤを張ったりは出来なかった。

 念話テレパシーで会話して言語が発達しなかった旧人ネアンデルタールの遺伝情報をベースに造られた、男は2メートルを超える巨人に、超能力のベースとなる脳の重量も人間より平均で400グラム重くしてある(元々旧人ネアンデルタールの方が新人ホモサピエンスより脳の重量は200グラム重かった。

 女の方は人間並みに小さかった。

 子供の頭が産道を通るため人間より難産だった。

 小さく産んで大きく育てる。

 自然治癒力が極限まで発達させたトロール(力を入れて傷が治る巨人)がいる。

 トロールは女王種と呼ばれ女の方が大きい。大地に触れていると強力な魔法的再生能力を持ち、傷をたちどころに治す。

 エネルギーとして脂肪を蓄えすぎているため、冬に北緯40度ぐらいまでしか南下できない。

 細胞の魔法的再生能力により妊娠期間も一か月程度。

 それでもやはり生物的に無理がかかるのか、普通の健常者は1割程度で奇形種や奇行種と呼ばれる未熟児も多い。

 子供の大きさを大きくし過ぎると母体が危険だからという説がある。

 種として存続している数少ない巨人。

 ティターンは月経も月一回で成人年齢も15才寿命も50才ぐらいだが西方北部に点在し、部族ごとに狩猟採集生活、念動力テレキネシスで魚を捕らえるなどして、研磨石器までしか文明度が発達しなかった。

 飛び道具も投げ槍機アストラル

 燃費も人間より悪かった。

 巨人族は古来の神の戦争で作られた先兵。

 炎のムチを持ち、火山帯で熱を吸収して生きる、エネルギー体のファイヤジャイアント(ディアボロともよばれる)や雄は5メートルになるシージャイアント(日本では海坊主と呼ばれる無毛の脂肪体)など、ティターンは全ての巨人の元の素材だったとも言われている。

 地・火・水・風と古代帝国が作った分類や創った種族があるが、後の文化比較論者や生物分類学者や魔法文明考古学者がトロールを地の巨人に分類して、シージャアイアントを水の巨人にした(彼等は流線形のバリアをはり高速で動くバリアの巨人)。

 風の巨人が見当たらなかった。

 島国日本で金縛りをさらに特化した小さな角の生えた巨人『鬼(オウガ)』が伝わり、その島国の中で、これが西方で絶滅している風の巨人ではないかと言われる竜巻つむじ風をあやつる『天狗』が発見された。

 神通力に特化していて、人間より小型化してカラスのような翼があった。

 今も議論が続いている。

 目の前にいるのは天狗ほど小型でないし、翼も生えていない。

 女性型のティターン。

 そんなに大きくはない。

 手にした武器はジオンが護衛に与えた物。

 高周波ブレードが飛び出した。

 チェーンソーと一緒で触れただけで大ダメージを与える。

 チムチムも耳からミスリル棍をだし弾いた。

 細く丸い高周波ブレードはメリルの左横に刺さった。

 びっくりして目を大きく見開く。

 ティターンの棍棒は3つに分かれた。

 左手の棍棒はメリルの横に刺さっていて、チムチムが棍棒で押さえている。

 右手の棍棒は自由になって、今チムチムの左肩に高周波ブレードを出して切り下げにきてる。

 中間の棍棒は念動力テレキネシスで宙に浮いてる。

 ジオンは真剣白刃取りで浮いてる棍棒の支配権を奪うとチムチムに振り下ろされる高周波ブレードから、高周波ブレードを出して、念動力テレキネシスを物ともせず力づくで受けた。

 右手でリザードマンが左腕に装着しているマジッククロスボゥを起動させる。

 カートリッジを差し込めば連射ができる優れ物。

 流星魔弓と呼ばれる曲線からの自動追尾。

 ジオンは右足でマジッククロスボゥごと踏んでカートリッジが挿入させなかった。

 リザードマンは卵生で哺乳類と違って乳腺で育てないから女性でも乳房はない。

 乳腺は汗腺から発達したもので、原始哺乳類のハリネズミなどお腹の汗腺から原始の母乳をだして、子供はお腹を舐めて成長していく、それが乳房へと発達したのだろう。

 リザードマンは卵を一個しか産まない。

 その卵を細菌から守る為、母乳にも使用されている抗体を含んだ汗で卵になでつける。

 これらの行為が原始母乳へと進化していった。

 子供は母親が噛み砕いた肉や魚を口移しにもらう。

 唾液腺の毒も継承する。

 母系を軸に部族によって毒の素性が違う。

 噛みつけば即死というわけでないが、解毒しなければ徐々に体力は奪われ、5分後には動けなくなる。

 毒の素性も補食者が耐性を持たないように100種以上で構成されていて、蛇でもそうだが毒の維持にエネルギーを使って、締め上げる力は強くない。

 リザードマンはサイズは人間並みかそれ以上だし、強靭な鎧のようなウロコを持っているが力はそんなに強くない。

 毒を含んだ唾液を細く吹き矢の様に放ってくるから厄介だ。

 ジオンにクロスボゥを踏まれたリザードマンは跳ね返す事は出来なかった。

「無礼ですょ。

 この方はサルディーラ王室第二王位継承者。

 武器をおさめなさい」

『この女がケンカを売った』

 念話テレパシーで叫んだ。

 巨人族が大集団を管理する文字が発達せず、それの基礎となる言葉が発達しなかったのも、概念を伝達できる進んだ念話テレパシーがあったから、言語が発達しなかった。

 人間との混血の北の人ノルマンは言葉も話せるし念話テレパシーで他の巨人共、会話ができた。

 例えば魚の取り方一つとっても産卵期に産卵場所に集まった魚を網で一網打尽にするやり方が、産卵期にどれだけ増えるかで豊漁が決まるのに、魚の取り方も違えば人間の早い物勝ちの感覚が、彼等の自然崇拝アニミズムと対立する物で、ノルマンが一部族を築き仲裁に入るようになるまで人間と巨人は見つけ次第逃げるか殺し合うかしていた。

「チムチム、お前が謝れ、

 こうなることは分かっていたろう」

 ジオンが口にした。

 リザードマンが噛みついてきたらどうしようと思い巡ったが、さすがに王子であるジオンに攻撃はしかけてこなかった。

「済まなかったゾナ。

 ちょっと口が滑ったゾナ」

 巨人ティターンの女が高周波ブレードを棍棒の中にしまった。ジオンも握っていた棍棒を高周波ブレードをしまい念動力テレキネシスに返した。

 武器が腰に納まる。

 リザードマンも身体にタスキがけしているマジックアローの弾倉にカートリッジをしまった。

 ジオンは右足を外しクロスボゥを解放する。

 弾倉には色々な種類のマジックミサイルが用意されている。

「お互い、言葉には気をつけましょう」ベルが口にする「先代の2人は大使館に勤めています。

 大使館に顔を出せば会えますょ。

 この2人はジオン王子がつけてくれた2人より強いかと思います」

「確かにな」

「お前たちもジオン王子の前で暴れるのはやめなさい。この人が本気になれば2人共死んでたわ」

「分かった」

 リザードマンが答えた共通語の発音がたどたどしい。

「紹介がまだでしたね。

 こちらの巨人ティターン族がディーネ。

 こちらのリザードマンがウロボロス族のヤルナ」

「ヤルナと呼んでくれていい」

「コッチにいるのが小人ドワーフ族のメリル。

 さっきケンカを売ったのが待つ人ラゴンのチムチム」

「まあ、私、ラゴンなんて初めて。

 この大陸にいたんですね。

 ケモ耳があるからネコ系の獣人アニマルフォークかと思ってました」

「触っていいゾナ」

 チムチムが右手を差し出した。

 微妙な空気の動きは分かるらしくエコーロケーションを使わずに両手で右手を取った。

 肘から指先まで触ると「本当だ。親指がない」

「そんなにプニプニ肉球をいじられると、感じるゾナ」

 チムチムが赤面させてくる。

「そこはラゴンは性感帯なんだ。その辺にしといてやれ」

「これは失礼」ベルは慌てて手を離した「でも王子、ここに来たのは世直しではないでしょう」

「なんだそれわ?」

「3日前秘密結社・幇で大層暴れたそうじゃないですか、その界隈では、その情報で持ちきりですょ。

 何しにいらしたのですか?」

「師匠が修行した日本で腕を磨こうかと思い東に陸路進んでいたら、このメリルが暗黒魔道士に襲われていて、それを助けた。

 彼女の目的は抽象的に言えば『楽園を探している』多分超古代文明の遺産だろう」

「超古代文明の遺産が目的ですか、

 たしかに200年ほど前に宇宙船が墜落して、それを守るように奈落アビスができて、宝石人が現れて国を作った。

 宇宙船から大量に降りてきたと言われる彼らの宇宙船の伝承はありません。

 魔石の加工に付随する技術レベルはありましたが旧支配者に比肩するレベルでは有りません、寿命も人間と同じ50年程で全て代替わりしてますが、文献からただ宇宙船に乗せられた難民だったと」

「技術者は居なかったのだろう。

 壊れていても宇宙船はあるのだろう。

 メリルにマスターカードが託された。

 そして俺自身見てみたい『かつての楽園』を

 メリルとの間では遺産は俺の総取りになっているが暗黒魔道士も協力してくれることになった。

 あれば彼らとの分配を考えねばなるまい」

「暗黒魔道士はどの程度信用できるのですか?

 四天王ビッグフォーのニャルラトポテプとモア様はバチバチにやりあっておいでですが」

「アンタのお父さん邪神にケンカを売ったの?」

「混沌大陸でいろいろ調べている時、殺し合いに発展したゾナ。

 でも、あの2人よくわからないゾナ。

 邪神ニャルラトポテプは女のニャル子さんに化けてモア様との間に1児もうけているゾナ。

 モア様もケッタイな男で女形に変化すればスライムとも寝るゾナ」

「親父も意見をコロコロ変える男だがニャルラトポテプも支離滅裂で親父は風土や資源にあわせた特産品による世界分業を提唱した。

 オランゲで軍船を造る工程を見て考えたらしい」その後は労働者と資本家の階級が広がり、帝国主義の台頭を見て一時期共産主義に手を貸したが「ニャルラトポテプは国境を無くしたグローバリゼーション一部のスーパー金持ちだけで話し合い世界を決めようとしたし(後のDSディープステート)、親父はナショナリストで国家の代表によって運営される世界政府をめざし。人口を増やし大規模化して余剰資産で科学や魔法の技術を発展させれば良いと考えたし、ニャルラトポテプは資源や環境や耕作地には限りがあるから、人口を増やさないようにして技術の進歩を止めて、人間や種族を細分化して、分断して、戦争を起こさせて適度に人口調整しようとした。

 思想が違う所と同じ所があって仲良く同盟を結んだかと思えば、周りには迷惑な事だが、争ったりもする。

 俺のような剣の求道者やアンタのような学問の研究の徒には分からん話だ」

 ベルの方を向き直り。

「思想的な話は一切していないし、向こうも縦割り社会、右手のしている事を左手は知らない。

 日本人じゃないけど、政治と宗教とセックスの話をしないのは大人なんだ。

 お前もそのつもりでいろ」

「かしこまりました」

「えっ、もう雇う気でいるの」

「彼女程の適任はいないだろう。それに」

「それに?」

「タダだし。

 給料はサルディーラからもらっているから」

 



 

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