第29話 異空間

「パオロンはまだ両手が動かない」

 キッとジオンを見た。

 もう少し早くから治療していれば、少なくとも両手は動いていた。

「あの程度の男、蹴り殺せるゾナ」

 ジオンへの睨みをチムチムが引き受ける。

「俺の判断ミスだ、裏稼業に手を出している人間がこんなに義理堅いとは思わなかった」

「人の道を外し、非道と言われても、悪には悪の掟があるアル」

「仮に殺せたとして、異空間からどうやって帰ってくる」

「迎えに行くしかないでしょう」ヨハンがユウリンの質問に答えた「異世界ならゲートを開ける事もできますが、異空間はジオン殿のアイテムボックスと一緒で登録した人以外開け閉めはできません。

 次元刀で穴を開け、それを触媒に異空間に人を送還します。用がすみしだい、パオロンさんを連れて召喚したいと思いますが、我ら魔法使いは五芒星ペンタグラムの形成・維持に手を割かねばなりませんし、最後に召喚も考えますと、1人しか送れませんが」

「俺が行こう。

 この中で俺が一番強い」

 ジオンが答えた。

 一番強いと言われて異論がでるはずもない。

 魔法使い達はステージに上がり鏡を中心に簡易的な儀式魔法の段取りに入る。

 ステージに上がってきたジオンにチムナターが「ジオン。小指をだして」とお願いしてきた。

 杖の先から金色の霊糸を出した。

 ジオンの小指に幾重にも回してから蝶々結びを行う「コレでよし、向こうの世界に行っても切れる事はない。空間を超えてつながっている。

 念話テレパシーは使える。

 分からない事があったら何でも聞いてくれ、心でジオンが求める時だけ会話できる。

 ケリがついたら知らせてくれ、皆で召喚する」

「何だか巫女シャーマンみたいだな」

「私程の魔法使いマジックユーザーになれば巫女シャーマンができる、幽体離脱など大抵のことはできる」ない胸を張った「なんでしたら使い魔のように視覚と聴覚を共有することもできますょ、ピンチになったら霊体アストラルボディで乗り込みましょうか」

「人間を使い魔にするのは技術的に可能でも感心せんなぁ。

 それにトイレとか、恥ずかしい事が色々あるから、そこまで共有してもらわなくて構わない」

 ジオンが軽く手を振った。

「異空間は他に出口あるのか?」

 ユウリンが魔法使いに声をかけた。

「それは制作した魔法使いによりけり、出入り口が一つしかない場合もあれば、複数ある場合もあります、持ち主にしか分からんのです、異世界ならゲートを開くというのは技術的に可能ですが」

 魔法使い達は鏡と次元刀を中心に腰のラインで光の線によるサークル五芒星ペントグラムを形成される。

 コレがソフィアの儀式魔法なら正三角形を組み合わせた六芒星ダビデの星が使われる。籠目は十字架と並ぶもう一つの象徴シンボル、身につけるだけで狙いや睨みを逸らす効果がある。

 次元刀が宙に浮き、音もなく鏡に刺さる。

「殺すの?」

 見送りにステージまで上がったメリルが口にする。

「ああ。

 あんな身勝手な被害妄想で猜疑心の凝り塊った男。

 百害あって一利なし。

 一日生かせば一日の悪。

 三日生かせば三日の悪だ」

「ジオン殿よろしいですか」

 ホールディングバッグを一つ背負って「構わんょ、やってくれ」

「では送還の儀にはいります。

 この者を異空間に送りたまえ」

 頭上に光の五芒星ペントグラムが現れ、上から下に下りていき、それに従ってジオンの姿も消える。

 ジオンは異空間におりた。

 地面はない。

 チェス盤の様に1メートル程の白と黒のマスが正確に敷き詰められている。

 空は星や太陽がある分けではない。

 暗黒の中を光の線が幾重にも走り、昼間のように明るかった。

 パオロンは戦っていた。

 トランプの兵士と、

 守護者ガーディアンとして売られている異空間だけで活動可能な水も食料もエネルギーもいらない使い捨ての兵士。

 タロットとトランプと花札の3種類あり、タロットが『出会い』『別れ』『成長』『対立と葛藤コンフリクト』などの人生の旅の暗喩メタファーに対して、トランプは『スペード(剣・軍事力)』『ダイヤ(宝石・経済力)』『クラブ(錫杖・宗教)』『ハート(愛)』などこの世界を構築する基本原理が象徴シンボル的に描かれている。

 花札は季節毎に移り変わる日本の情景が描かれている。

 パオロンは剣や槍で近接戦を仕掛けてくるスペードの兵士相手に、握れもしないのに「不知火」で指で引っ掛けながら、回避を軸に切断していた。

 乱戦になっているせいかダイヤの兵士は弓矢や鉄砲や大砲を構えているだけで仕掛けてこない。

 クラブの兵士は傷ついたスペードの兵士を魔法で癒している。

 ハートの兵士は範囲魔法が使えない、それぞれさまざまな属性のマジックミサイルを撃っているが、「不知火」にことごとく撃ち落とされている。

 絵札は全て騎兵になっていてハンフリーを守っている。

 切り札のA達は高みの見物を決め込んでいる。

 ジオンはアイテムボックスから10個の精霊籠を出した。

 それぞれ「大地」「風」「火」「水」「雷」「氷」「闇」「光」「力」「死」の精霊が解放されて、それぞれ戦闘用の変態メタモルフォーゼを行う。

力の精霊フォース」が毛むくじゃらの龍から、透明な鱗を生やした、中央に氷の様な白い結晶がある。

大地の精霊ノーム」は茶色、「風の精霊シルフ」は緑色、「火の精霊サラマンダー」は赤色、「水の精霊ウィンディーネ」は青色、「雷の精霊ラムゥ」は紫色、「氷の精霊シヴァ」は白色、「闇の精霊シェード」は黒色、「光の精霊ウィル・オー・ウィスプ」は虹色の鎧をそれぞれまとった。(ここに生命の精霊ユニコーンがいれば黄色をまとい、死の精霊レイスがいれば金色をまとったろう)

 更にジオンが魔力を供給すると、拳サイズしかなかった精霊達が大人サイズまで大きくなる。

「イッケー」

 ジオンが解き放つと空中を飛んだ精霊達がトランプ兵士に襲いかかった。

力の精霊フォース」重力で押しつぶす、「大地の精霊ノーム」は石つぶてを放ち打撃をあたえる、「風の精霊シルフ」は真空の刃で切断する、「火の精霊サラマンダー」は燃やす、「水の精霊ウィンディーネ」は水の槍で貫通する、「雷の精霊ラムゥ」電撃を与え痺れさせ、「氷の精霊シヴァ」は凍らせて火傷をあたえる、「闇の精霊シェード」は視覚を奪い、「光の精霊ウィル・オー・ウィスプ」は幻覚の分身を作り上げる。

「死の精霊」はジオンが手にしたミスリルの槍に付与エンチャントされた。

 パオロンの所にトランプ兵士を薙ぎ払いながら近づく「無事か」と声をかけた。

「ああ、どうやって来た。

 空間が閉じるのを感じたが」

「魔法使いが5人もいるんだ。

 なんとかしてくれるよ、

 それより薬がある。

 両手を回復したい」

 ジオンが背中のアイテムボックスから薬をとりだす。

 パオロンが動かぬ両手を差し出した。

「なぜ助ける」

 ジオンは薬をふりかける。

「今まで東洋人は寛容の精神と信頼トラストがない社会かと思っていた。

 あんたみたいな義理堅い気持ちのいい男。

 殺すには惜しいし、ハンフリーは野放しにできない」

 両手が拳を握りしめて、グーパーグーパーする。

 完全復活したようだ。

「腰の剣は魂喰らいソウルイーター)だろう。

 なぜ使わない、魂をすすればすするほど強くなるんだろ」

「村雨ブレードは魂喰らいソウルイーターと違って精神に作用するもの、特定の種族や家系に反応すると血をすすりたがる。精神が強い時は力を貸すが弱っている時は支配し身体を乗っ取る、諸刃のつるぎ。

 この妖刀・村雨ブレードは人という種族を憎んでいる。強敵を相手にした時しか抜かない。

 それに俺は集団戦は槍を使っていたし、これで一騎討ちから先駆けまでなんでもこなしていた」

「とんだ、将軍様だ」

「皆「ジオン将軍を殺すな!」「ジオン将軍に続け」「ジーク・ジオン」と叫びながらついてきたょ」

「困った将軍様だ」

 トランプ兵士の数がミルミル減っている。

 兵士が多いからといっても、連携ができなければ烏合の衆にしかすぎず、クラブの兵士の回復力を精霊を含むジオン側の攻撃力が上回っているし、火の精霊サラマンダーなど、クラブの兵士を優先的に叩いている。

 ジオンが槍に付与エンチャントした「死の精霊レイス」偽物の魂としても収奪する。

 ジオンに殺された兵士は蘇生リザレクションできないのだ。

「大した量の魔力だ。

 これだけの精霊を使いこなせるなら、魔法使いやっても大成したんじゃないか」

「ハーフアルフは人間の5倍くらい魔力があるからなぁ、人間の10倍魔力があると言われるアルフの親父も魔法を覚えたら馬鹿になると本気で信じていて、魔法使いを使えればいいと思っていた。

 一般教養として魔法にできることと魔法使いへの対抗手段は教えられたがな」

 数字兵士はあらかた片付いた。

 騎兵(絵札)に守られてハンフリーが奇門遁甲盤を使用している。

 何か『道』を開いているようだ。

「むかえ」

 いよいよ精霊達に騎兵を襲撃させた。

 ジオンとパオロンは切り札(A)に向かった。

 2人の目の前でクラブのAがダイヤとスペードのAに物理攻撃無効プロテスをかけた。

 ハートのAが攻撃力向上バフをかけた。

 スペードのAが左右に両方差している剣を抜く。

 どの文化にも共通していえることだが、普通腰の左に剣を差している場合は左側通行。

 鞘同士がぶつからないのと、右手で抜いて切り下ろしたいから相手を右側に置いておきたい。

 右側通行になったのは拳銃のホルスターを右の腰に取り付けて、右手で抜く様になってからであって、二刀流であっても左側に2本差していた。

 このカードを作った魔法使いは余り社会の中で生活してない偏屈者だろう。

 スペードのAもダイヤのAも剣を抜いて向かってくる。

 スペードのAが剣はミスリル製のサンダーソードとアイスソード、サンダーソードを受ければ手が痺れ武器が持てなくなり、足が痺れ歩けなくなり、最悪感電死してしまう。

 アイスソードを受ければ武器との間に火傷をおい、はりついて武器の持ち替えができなくなる。

 両方受ければ離せない上に電気が流れる。

 槍も柄が木製なら熱の伝導率も電気の伝導率も低いが剣先からフックのついた柄尻まで、金属のミスリル製。

 ダイヤのAが抜いた剣はミスリル製のファイヤーソードである。

 単に火を帯びるだけではない。

 火球ファイヤーボールを放てば、火炎放射器も、一本で3役こなす。

 火炎放射を放ちながら近づいてくる。

 ジオンとパオロンが左右に別れる。

 スペードのAが左右に手を広げると胴と足が針金一本で独立していて、独楽のように回転しながらジオンに向かって襲ってくる。

 手も足も首も針金になっていて頭部は回転せずにジオンに狙いを定めている。

 ジオンのミスリル製のチェーンメイルや槍、村雨ブレードがバチバチ音を立て始めた。

 青白い荷電粒子がはしる。

 ハートのAが「下位のエクスプロージョン」を唱えた。

 エクスプロージョンは今では強力過ぎて使えないネタ魔法だが、後の世から熱核魔法と分類された。

 軍隊や都市を壊滅させ、後に巨人戦争ともよばれる完全魔法防御をした巨大ロボットによる世界大戦の中、戦略級魔法と呼ばれたが味方も巻き込むし、魔法自体は距離が離れれば離れる程魔力を必要とする。目の前の敵しか撃ち込めず、遠くの都市は攻撃できないが魔法使いによる自爆テロは恐れていた。

 味方に対して強力な耐熱魔法結界を張って、温度上昇から生まれる爆風に耐えながら使用する複数の人間で行う儀式魔法。

『下位のエクスプロージョン』魔法の武器だろうが何だろうが『電子レンジ魔法』ともよばれ、水を沸騰させるどころか金属を溶かす。

 完全な魔法防御を誇った巨神兵に唯一対抗できた魔法。

 巨神兵の関節ユニットを溶かし、電気系を過電流オーバーロードさせ、パイロットをこんがりローストする。

 巨神兵に随伴する兵士やスナイパーがまず先に魔法使いを狙ったのもこの魔法を使われたら、軍隊の維持に致命的だからだ。

 しかも範囲が狭いとはいえ範囲魔法だから周りをじわじわあっため、マジックリフレクションが効かない。

 クラブのAが「天罰ネメシス」を唱えた。

 白魔法は攻撃魔法は「聖撃ホーリー」「神の怒りメギド」「天罰ネメシス」の3つしかない。

聖撃ホーリー」は自動追尾攻撃や飛んでくる矢や魔法を自動防衛で叩き落とす、小さな丸い玉からでる光線のようなファンネル魔法だが「神の怒りメギド」はたくさんの信者が祈りを捧げる事で使用可能な教会魔法、丸い球状のボールが浮かび上がり信仰心の少ない者から、曲がる光線で攻撃する。たくさんの恩恵エイラーンのある者には当たっても効果が無い。

 そして「天罰ネメシス」光の人柱で肉体を滅ぼすだけでなく、魂も輪廻転生させずに消滅させる。

 禁断の大技で人間ならば罪人にさえ使ってはならないとされ、悪魔を滅する時のみ使うし、使用する恩恵エイラーンの量の関係からも単独で使うのは無理だが、倒されたクラブのカードの残留思念から恩恵エイラーンを集めている。

 パオロンの周囲から白い丸い小さな光の玉が幾十にも浮かび上がる。

 ジオンもパオロンもお互いに時間がない。

 火炎放射をかわして念法・不知火で叩きつけるが6角形の青い魔法の盾プロテスに阻まれてダメージを与えられない。

 本来ならプロテスをかけた敵は前衛は防御に徹して後衛の魔法で攻撃するのが一般的である。

「鉄山靠 」体当たりをかけた。プロテスでダメージは与えなくても吹き飛ばしノックバックは可能でダイヤのAは後ろに高く舞い上がる。

「魔法戦士とはやっかいな」

 おまけに手も足も首も針金のような物で出来ていて関節技サブミッションは効かないし、合気投げにしろ空気投げにしろ、重力を使った崩しを入れるのが常識で空中に浮いてる相手は掴んで投げ落とすしか手がない。

 ジオンは回転する刃をしゃがんで回避すると、槍で二本の腕を絡めとった。

 魔法の盾プロテスのおかげで接触はしないが、それでも両手が槍に絡まる。

 遥か後方に僚力て槍投げした。

 ジオンが村雨ブレードをハートのAに抜き放った。

 村雨ブレードは眉間に刺さる。

精神剣サイコソード

 精神波が村雨ブレードの頭部に届きハートのAの頭部が爆破して詠唱が止まる。

 パオロンが髪の毛に念を込めて、真っ直ぐな武器にすると二指真空波で吹き飛ばし、クラブのAの頭部に突き刺さった。

「爆」

 離れた髪の毛に気を送るとクラブのAの頭が爆破して詠唱が止まる。

「アンタ、気功も使えるのかい」

「ユウリンよりわな」

 ダイヤのAとスペードのAが立ち上がる。

 ダイヤのAが火球を投げてきた。

 走って回避した。

 マジックミサイルのように追尾はしてこない。

 スペードのAがジオンに「空中浮遊」の魔法を唱える。相手を浮かせてなぶり殺しにするのは魔法使いの常套手段だ。

 だが胸のマジックリフレクションが発動する。

 浮き上がったのはスペードのAの方だ。

 ジオンは浮いたスペードのAの頭を両手で持って叩きつけた。プロテスは叩きつけるダメージは殺せても、両手で掴むという圧縮力は殺せなかった。

 背中を押さえつけたが針金の両手による攻撃は可能だった。

 攻撃が届く前に首を引きちぎった。

 プロテスではひっぱりの力も殺すことはできなかった。

 パオロンは上着を脱いでファイヤーソードに念法を込めて巻き付けた。

 火の勢いが止まる。

 両の掌を優しくダイヤのAに当てた。

 プロテスが掌を阻む。

「寸発勁+太極波」

 鎧を通す攻撃がプロテスを貫通して、気による純粋な攻撃・太極波がダイヤのAを引き裂いた。

 首を手にしたジオンに向かって「大した力だ」と感心した。

「母親譲りなんでね」

「アルフを落とすなんて大した女傑だ」

「正確を記すなら捕獲したが正しい」

 ジオンが投げた武器を回収して、パオロンが焼けた上着を着た頃、精霊達はプロテスには魔法で、魔法結界には力の精霊フォースが引き裂いた。

 精霊達が絵札を片付けてハンフリーを取り囲んでいた。彼らカードの持っていたマジックアイテムは本体消滅の時、同時に消えた。

 精霊籠を槍に通し肩に担いだジオンとパオロンがゆっくりとハンフリーの前に立つ。

「ジョーカーは無いのか」

「あるはずだ、セット売りとバラ売りがある。

 おおかた金をけっちたんだろう」

「俺を殺せば帰れなくなるぞ」

「魔法使いが5人もいるんだ。貴様に心配してもらわなくても構わない」

「呼べよ」パオロンが短く命令した「召喚サモンしているか、ゲートを開いているか、ロードをつなげているかは知らんが、付け焼き刃の盗品で、修業と研鑽の末、獲得した我らの武を、上回る魔物を制御コントロールできる自信があるのなら。

 待ってやるから呼べよ」

「リュウ老師を殺したのは俺じゃない」

「お前の罪は殺人ではない」

「チッキショー」

 餓鬼道に接続した。

 大きい物は膝まである。

 小さい物は拳大の、青紫から赤紫まで、紫を基調とした色々な餓鬼が道を通してやってくる。

 頭部に一本の角があり、栄養失調のように痩せていで、水腹がぷっくりとふくれている。

 ハンフリーの手のひらの人面祖がさけんだ。

「あの2人を喰い殺せ」

 ジオンが籠のついた槍を放り投げ、神速の抜刀術を見せ人面祖のついた手首を落とした。

 血振り、納刀。

 槍を受け取ると籠は一つも落ちてなかった。

「いてーーーーっ」

 ハンフリーが切り落とされた手首を押さえた。

 餓鬼達はジオンにもパオロンにも襲いかからなかった。

 距離をとって遠巻きに2人を見ている。

 彼らは動物の本能で分かるのだ、弱い悪魔が束になってかかっても勝てる相手ではない。

 ハンフリーの前に大きめの餓鬼が一体やってきた。

 切り落とされた手首をつまんでから丸呑みした。

 そしてそれが合図だった。

 餓鬼達が一斉にハンフリーに襲いかかった。

「やめてくれ、助けてくれ、死にたくない」

 数多くの餓鬼か群がり、肉を千切り、臓腑をひっぱり、目玉をクリ抜き、骨をしゃぶった。

「終わったな」

 パオロンが呟くとジオンは精霊達を籠に戻した。

「チムナター。引き上げてくれ」

 左小指の霊糸に向かって静かに口にした。

 2人の頭上に光の五芒星(ペントグラム)があらわれて姿が消えていく。

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